「歯周病による抜歯」は「むし歯による抜歯」より多い
むし歯で歯を抜歯したという話はよく聞くと思いますが、実際に抜歯になったケースは歯周病による抜歯のほうが多く、むし歯による抜歯が29.2%に対して歯周病による抜歯は37.1%となっています。
むし歯の場合、抜歯は当該歯だけで済むのですが、歯周病の恐いところは、複数の歯を同時に抜歯しなければならないケースがあることです。歯周病は虫歯と違い、一本の歯だけ悪くなるのではなく、慢性的に複数の歯と周りの組織を悪くしてしまうのです。
重症化してから来院する患者さんたち
歯周病は、軽度のうちに治療を開始すれば、生活に支障がきたす重度の歯周病になることはありません。ですが、軽度の歯周病で治療をしに来院する方は少数しかいません。前回の記事『【歯周病】高齢者ほどなりやすいのはなぜ?歯を失わないために知っておきたい事実(歯科医師が解説)』で述べたように、歯周病は重度にならない限り自覚症状の乏しい病気です。ブラッシング時の出血もそうですが、口の中がネバネバする、口臭があるなど、一過性または軽度の症状が多く、そのまま放っておく人も多いかと思います。歯周病は自然と改善することなく、重症化し、口腔だけでなく多くの全身疾患へと繋がっていきます。いかに軽度のときに治療を開始するかがポイントになります。
歯周病治療を後回しにする理由として一番よく聞くのは、「忙しい」という事情です。忙しくて時間が取れない患者さんは、とりあえず歯周病以外の悪いところだけを治して、歯周病治療は後回しにする傾向があります。重度の歯周病でない限り、生活に支障がほとんど出ないからです。そのため私たち歯科医療を提供する側も、歯周病治療を希望して来院する患者さんは重度になった方を診るケースがほとんどです。
歯周病の治療方法
ここからは、歯周病治療についてご紹介していきましょう。
【歯周基本治療 SRP(スケーリングルートプレーニング)】
歯周病治療は、初期でも重度でも、まずは歯周ポケット検査を行います。歯周ポケット検査後、歯周病ポケットより上の部分(歯茎から上の目視できる部分)の歯石除去(スケーリング)を行います。それと同時にブラッシング指導を行います。その後再検査をします。軽度の場合、スケーリングとブラッシングにより歯周組織は良好な状態を保てます。いわゆる“歯石を取る”、“歯のクリーニングをする”というのはこの治療のことを言います。
再検査で歯周ポケットの改善が見られない(歯周ポケットが4mm以上ある)、または歯茎の内側の歯面にも歯石がついている場合にはSRPを行います。SRPとはスケーリングルートプレーニングの略であり、歯周ポケットの内面のこびりついた歯石や細菌の塊を取り、歯面を滑沢する治療です。
SRPの目的は汚れを取るだけでなく、歯周病菌数を減らす、歯周ポケットの出血を抑える、炎症を抑えることで失われた歯の周りの骨の再生を促すなどがあります。SRPは歯周病治療をする上で最も重要な処置です。この治療をすることにより、初期の歯周病ならほとんど改善し、重度の歯周病でもSRPによりかなり良くなります。
ここまでの処置を歯周基本治療と言います。ただ、このSRPには大きな問題点があり、実際の臨床の場では思った以上に普及されていません(詳細は次回記事で解説します)。
【歯周内科とレーザー治療】
慢性の歯周病を悪化させるのは、歯周病菌だけではありません。2021年の研究では、口腔内に常在するカンジダ菌が、歯周病になる可能性を1.76倍も高めることがわかりました。
カンジダ菌が歯周病を悪化させることは以前からわかっていたため、その治療法の一つとして歯周内科という治療法があります。この治療法はジスロマックという抗生物質を飲み、SRP(スケーリングルートプレーニング)を行います。また、治療期間中はカンジダ菌などの抗真菌薬を歯磨き粉として使用します。
この治療法は従来の歯周基本治療より高い効果が期待できます。また殺菌力の強いレーザーを歯周ポケット内に照射しながらSRPを行い、炎症の低下や治癒の促進させる治療法もあります。
【歯周外科治療(フラップ手術)】
SRPをしたのち三度目の歯周ポケット検査をします。歯周病の治療に検査が多いのは、治療により歯周組織の状態が変わるからです。
SRPをして改善されない歯周ポケットに対しては、歯周外科治療を行います。この治療法は色々とありますが、主な目的は、病的な歯肉を切除し直視できる状態にしてSRPでは取りきれなかった汚れを取ったり、失われた骨に補填材を入れたりして、歯肉と歯を良い状態でくっつかせ、歯周ポケットの改善を図って行くことです。
【失われた骨を再生する「歯周組織再生療法」】
歯周病菌が歯周組織に与える悪影響の一つに、歯を支える骨を溶かしてしまう作用があります。骨の失われ方は重要です。なぜなら、歯科医師はこの失われた骨の状態から治療計画を立てるからです。
従来では、失われた骨に対しての治療法はこれ以上失わないようにするのが主体であり、失われた骨の回復は人の治癒力を期待するというものでした。
治療スタイルが大きく変わったのは、2001年にスウェーデンから歯周組織再生誘導剤 (エムドゲイン)が開発されたことによります。それまでの治療法のスタンスとしては、歯周病を悪化させないいわゆる“守り”の治療法でしたがが、この薬剤の登場により積極的に歯周組織を治癒させるという“攻め”の治療が可能となりました。
日本では2002年に厚労省で認可されエムドゲインの使用が可能となり、また2016年には日本製の歯周組織再生誘導剤(リグロス)が開発されました。リグロスは保険適用となっており、より治療を受けやすくなっています。
次回は最終回として、歯周病に最も悪影響を与えるのは何か、また歯周治療の問題点について述べます。
橋村 威慶
サッカー通りみなみデンタルオフィス 院長
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