殖やすことだけに目が向くと、運用にも無理が出やすい
リターンや収益額の目標をイメージして資産運用に取り組む人は多くいますが、最大許容損失額を把握している人はあまりいません。資産運用においては、「どれくらい儲けたいか」ではなく、「どれくらい損失に耐えられるか」が重要です。
世界的に株価が下落するような事態が発生した場合に、今投資している資産からどのくらい損失が発生するか把握していますか? 計画的に資産運用に取り組もうとすると、多くの人は「時間をかけて2倍に増やしたい!」「年間500万円の運用益は稼ぎたい!」などと考えます。ほかにも、「退職金として受け取った3000万円を5%で運用出来たら、年間150万円の収入になるな。税金を差し引いても毎月10万円は使える!」と資産運用が上手くいっている生活を想像するかもしれません。
計画的に取り組むのはもちろん大切なことです。しかし、この発想には問題もあります。殖やすことばかりに頭がいってしまうと、無理な運用につながる可能性があり非常に危険です。
「早く、少しでも多く資産を増やしたい」「運用益でゆとりある生活がしたい」、など、この誰もが持つあたり前の願いが資産運用においては実に危ないのです。
「目標金額ありき」のポートフォリオは危険
高い目標を掲げると、どこかに無理のあるプランを策定してしまいます。自分のバラ色の未来図になんとか近づけようと、価格変動の大きい資産を中心にポートフォリオを組んでしまいがちです。高い目標を達成しようとして、株式などの投資比率が高くなりリスクを取りすぎてしまうのです。
金融商品を販売することが目的となっている金融機関の営業担当者からすれば、こういった発想を上手く利用することで、営業がしやすくなります。
「ゆとりある老後のために、65歳で3000万円あるといいですよね。この目標を達成するために、多少リスクはありますが、こちらの商品で運用していきましょう」とか、「この資金を4%で運用できたら、毎月15万円は自由に使えるお金が増えますよ」と勧められると、「じゃあ、それでやってみようかな。お願いします!」となってしまうのです。
また、資産運用の専門家のなかにも、目標金額から必要利回りを計算してポートフォリオを決定するようアドバイスをする人もいます。でもそのやり方では、過度なリスクを取って資産を運用してしまうことになりかねません。
では、そうならないためにはどうすればよいのでしょうか? それは、ズバリ、「逆転の発想をすること」です。「どれくらい儲けたいか」ではなくて「どれくらいの損失に耐えられるか」から考えることです。
『経済危機が発生して相場が大暴落すると、一時的には500万円くらいは損する可能性があるな』と、自分が許せる最大損失額を頭に置きながら各資産への配分比率を決めていきます。そうすれば、きちんとリスクをコントロールしながら資産運用に取り組むことができます。
もちろん、耐えられる損失の大きさには個人差があります。保有資産に占める投資金額の割合や年齢、性格、家族の状況、投資経験など、よく考えた上で、目標利回りを決めます。その結果、期待した運用成果が得られそうにないのであれば、さらにリスクをとってお金を殖やそうとするのではなく、目標を修正するしかありません。
投資において、取り返しのつかない失敗をしてしまわないためにも、バラ色の未来を想像するのではなく、「自分がどれくらい損失に耐えられるか」を冷静に判断したうえで、資産運用に取り組むようにしましょう。