(※写真はイメージです/PIXTA)

健康を維持するために、運動はとても大切なもの。とはいえ、「運動のしすぎ」は「しなさすぎ」と同じくらい身体にダメージを与えてしまうと、東京ハートリズムクリニックの桑原大志院長はいいます。では、健康維持に最適な運動量はどのくらいなのでしょうか。さまざまなデータを読み解きながら、桑原院長がおすすめする「本当に体にいい運動」をみていきましょう。

「運動は身体にいい」をエビデンスから読み解く

運動が身体にいいことは、すでに多くの研究から明らかになっています。以下で具体的にみていきましょう。

 

運動は身体を鍛えるだけでなく、がんや認知症のリスクも下げる

「運動は身体に良いか、悪いか」といわれたら、きっとほとんどの人が「良い」と答えるでしょう。実際、[図表1]のように神経や内分泌、筋骨格、腫瘍、心血管など、さまざまな分野で身体にたくさんの恩恵をもたらしてくれることが研究でわかっています。

 

改変:European Heart Journal(2015) 36,1445-1453
改変:European Heart Journal(2015) 36,1445-1453

 

「運動が心臓病予防にいい」と明らかになった第二次世界大戦直後

次に、筆者の専門分野である「冠動脈疾患の予防」という観点から、さまざまな研究を紐解いてみます。

 

歴史上、最初に「運動は身体にとっていい影響をもたらすのではないか」という考えが示されたのは、1953年に発表された論文です。

 

忙しく働くバス運転手と郵便配達員は、忙しくないバス運転手や座り仕事の多い人に比べて、「冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)の発症が50%少ない」という研究結果が述べられたのです。

 

このあと、世界中の研究者たちが運動と健康について調査しました。2002年には、ある興味深い研究結果が発表されています。

 

週に1回のランニングで出た「差」

アメリカの格調高い医学雑誌「JAMA」に掲載された論文です。米国人男性44,452人に対し、1986年から1998年まで2年間隔で追跡調査を行いました。観察したところ、1,700例に冠動脈疾患が発症していました。

 

彼らの運動履歴を比較すると、週に1時間以上ランニングをした男性は、ランニングをしなかった男性と比較して、冠動脈疾患の発症リスクが42%減少し、週に30分以上ウェイトトレーニングを行う男性は、行わない男性と比較してリスクが23%減少していました。また週1時間以上のボート漕ぎは、18%のリスク低減と関連していました。

 

いずれにしても、運動する人はしない人に比べて冠動脈疾患の発症率が下がっていることがわかります。

 

では、どれくらいの運動量が健康のために最適なのでしょうか。上記の研究は「METs(メッツ)」という、身体活動の強度を示す単位で対象者たちの運動レベルを測定しました。

 

参考までに、厚生労働省が示す「生活活動のメッツ表」によると、座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツ、ゆっくりとしたジョギング、ウェイトトレーニングが6メッツ、ランニング(188m/分)が11メッツに相当します。
※ http://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/mets.pdf

 

中等度(4~6メッツ)および高(6~12メッツ)の活動強度は、低い活動強度(<4メッツ)と比較して冠動脈疾患のリスク発生率が低い結果となっています。これだけでなく、1日30分以上の早歩きは18%以上リスク低減と関連していることも明らかになりました

※ JAMA. 2002 Oct 23-30;288(16):1994-2000

 

同様の結果は、2010年に医学雑誌「Circulation」でも報告されています。

 

1986年から 2008年にかけて、65歳から 92歳の男性退役軍人 5,314 名(平均年齢 71.45歳)を対象に、運動能力と全死因死亡率との関連を研究しました。8年ほど追跡調査したところ、2,137人が死亡してしまったのです。

 

対象者たちの運動履歴を見ると、5メッツ以上の運動強度の場合、1メッツ上がるごとに死亡率が12~20%減少しています。運動量が高い人たちのほうが長生きできたのです。

 

Circulation. 2010;122:790-797.
Circulation. 2010;122:790-797.

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。