本記事では、ニッセイ基礎研究所の前山裕亮氏が、NISAの拡充について考察していきます。
悪くない金融庁のNISA拡充要望…バランスが良い一本化だが懸念も (写真はイメージです/PIXTA)

2つの懸念

その一方で懸念点が2つある。まず、売却すると年間投資枠は復活しないものの非課税限度額は復活するため、制度の意図しない短期売買にも使われる可能性があることである。そのため非課税限度額を設定しても、年間投資枠もある程度は低く定められるかもしれない。もし年間投資枠を大きくするのであれば、例えば「買付してから2年以内に売却した場合には非課税対象外」になるようなロック・アップ期間を設ける必要があるだろう。ただし、現時点では売却時に非課税限度額がどのように復活する仕様になるかは不明であり、復活の仕様次第のところもある。

 

もう一つの懸念点は新制度になると開設した金融機関の変更が困難になる可能性があり、投資家は現行制度以上に口座開設する金融機関を慎重に選ぶ必要が出てくるかもしれないことである。現在、年単位で金融機関を変更することが可能であるが、このような仕様はシステム構築の負荷が高く、しかも開発期間も限られており、金融庁は検討しているようだが、実現は相当困難なのではないかと筆者は考えている。それに伴って金融機関の変更が原則不可、もしくは変更する場合は確定拠出年金のように全売却したうえで、別の金融機関で新たに開設する形に落ち着く可能性がある。

 

なお、現行の制度からの新制度の移管についても、金融庁は前向きに検討している様子であるが、同様の理由で難しいと考えている。つまり、システム負荷を考慮すると非課税限度額が障害となり、良くも悪くも完全に仕切り直しで拡充策がスタートする形になるのではと筆者は予想している。いずれにしても、非課税限度額の設定に伴うシステム変更の負荷が障害の一つとなるだろう。

最後に

今回、公開されたのはあくまでも要望であり、本当に実現するか現時点では不透明である。先述した細かい懸念点はさておき、金融庁ならびに政府、さらにはシステム関係者には、ぜひとも実現できるように尽力していただきたい。ただ、どんなに良い制度でも活用されなければ意味がなく、金融庁には制度活用が広まる方策も合わせて進めていただきたい。幸いにも金融機関もしくは業界団体から資産所得倍増プランを歓迎し、サポートする旨の発言が相次いでいる。

 

2014年の一般NISA開始時には口座開設に熱心な金融機関が多かったものの、残念ながら開設後のサポートが不十分だった金融機関もあったようである。日本証券業協会と日本取引所グループが実施したアンケート調査*2で、「投資する気がなかったが金融機関に薦められて(お付き合いで)開設したため」が口座開設したものの使われなかった理由の一番であった【図表3】。

 

【図表3】 NISA口座を開設したが投資を行っていない理由

 

実際に一般NISAでは2021年に買付がなかった未稼働の口座が546万口座と買付があった531万口座よりも多くなっている【図表4】。つみたてNISAでは2021年に買付がなかった未稼働口座が140万口座、買付があった口座が373万口座であり、一般NISAの未稼働口座が突出して多いことが分かる。

 

【図表4】 つみたてNISAと一般NISAの口座数:2021年

 

金融庁には是非、要望した拡充策が実現した暁には制度開始後に金融機関ごとに開設された口座数と合わせて実際に稼働している口座数も公表するなど、本当に制度活用拡大に協力している金融機関が分かるような情報開示を行い、未稼働の口座が多い金融機関が自ら改善に向けて動き出すような仕組みを構築していただきたい。

 

*2:日本証券業協会、株式会社日本取引所グループ「2021年度国民のNISAの利用状況等に関するアンケート調査報告書」