口の中の細菌は「腸」にまで達していた!
歯周病原菌に限らず口腔内の細菌は、以下の3つの方向に流れて全身に悪影響を及ぼします。
1. 歯周ポケット・根尖病変・手術などの傷口から血流に入り全身へ
2. 唾液を誤嚥し気管~肺へ
3. 飲み込んだ唾液内の細菌が胃酸で死滅せず、そのまま小腸大腸へ
1は先に説明した菌血症のことです。この細菌が増殖して発熱すると、敗血症と言ってたいへん危険な状態に陥りますが、免疫が正常であればそのようなことはなく、よほどのことがない限り問題になりません。
しかし菌血症が落ち着くまでには数日かかるので、その間にどこかに定着する可能性があります。その場所が脳であることもあるわけです。
2はよく知られている誤嚥性肺炎です。高齢者において夜間に唾液が気管に流入し、肺炎を起こすのがこれです。介護のヘルパーさんに歯磨きを徹底していただくことで、かなり予防できることがわかっています。
3は目新しい事実です。私たちは1日にだいたい1.5Lもの唾液を飲み込んでいますが、その中には当然口の中の細菌が混入しています。そしてそれらは胃酸で殺菌されるので、腸にまで届くはずはないと考えられていました。
しかし検査方法が発達すると、意外にも口腔内細菌と同じものが大腸からも検出されるようになりました。
また本来そう多くの細菌がいるはずのない小腸にも、細菌が過剰に増殖している人が多いこともわかってきました(SIBOと言います)。食後すぐに膨満感が出る人は、その可能性があります。
さて現代人の胃腸には、いったい何が起きているのでしょう?
胃酸抑制剤を飲み続けるリスク
お薬手帳が普及したおかげで、私たちは患者さんの服薬歴が初診時にわかるようになりました。
これを見ていると、胃酸抑制剤を長期間服用し続けている人がとても多いことに気づきます。これは胃の不快症状にはとてもよく効くポピュラーな薬で、同じ用途の薬は一般市販薬としても広く流通しています。
ところがこの薬は読んで字のごとく、胃酸をストップさせるので、胃の本来の役割であるタンパク質の消化(分解)ができません。
と同時に、すでにお気づきのように、口から落ちてきた細菌を十分に殺菌することができなくなります。ですから未消化物と細菌が、そのまま腸に移動します。腸の中は温度36℃で湿度100%ですから、生き残った細菌は未消化物をエサに、喜んで小腸で増殖します。
では胃酸抑制剤を飲んでいなければ心配ないのでしょうか? どうもそうは言えないようです。
図表1は、よく胃がん検診で用いられるペプシノーゲンという検査の結果です。このうちペプシノーゲン1が胃酸の出具合の指標なのですが、70くらい欲しいところが半分もない人がほとんどです。
そもそも食事でのタンパク質摂取量が少ない人が多いのですが、それを原材料にしているペプシノーゲン1も連動して低下すると言われています。
ではそれを増やすためにタンパク質を増量すると、消化不良でタンパク質を利用できないというジレンマが生じます。
この状態でもし胃酸抑制剤を使ってしまうと消化不良はさらに助長され、体調不良の沼に落ちることになります。
しかしそれを知らずに服用している人が少なくありません。これは、歯科医院であっても問診で気づくことが多いのです。