「プーチンのウクライナ侵攻」を予言していたフランスのエリート必読の書

「プーチンのウクライナ侵攻」を予言していた書籍があります。ジョージア侵攻やクリミア併合など、軍事的な成果がプーチン大統領の人気を支えてきました。その一方でプーチン大統領は「強いロシア」のノスタルジーと過去の栄光を取り戻したいという国民の願望を利用してきました。なぜ、プーチン大統領はウクライナに侵攻したのか。フランスのエリート必読の書である『グランゼコールの教科書』には何が書かれていたのでしょうか。

なぜソ連の改革は失敗したのか?

■権力に対するノスタルジー

 

ミハイル・ゴルバチョフが、制御不能な状況に陥ることなく、ソビエト社会主義共和国連邦(USSR)の改革が本当に可能だと信じていたのかどうかは定かでない。いずれにしろ、彼は勇気をもって打ち出した改革のプロセスをめざましいテンポで推し進め、ソ連経済の「徹底的な改革」が必要だと宣言してからわずか5年余り後の1991年12月、ロシアを惨めな状況に置いたまま権力の座を降りた。

 

失業者数は7倍に膨れ上がり、インフレの波が押し寄せ、ルーブルの価値は急落した。深刻な食糧難が国民を襲い、平均寿命の低下を招くほどだった。出生率上昇と移民の増加で2009年から人口は回復し始めたものの、平均寿命は男性61.7歳、女性74.3歳で依然として低い。

 

ボリス・エリツィンも安定した民主主義体制樹立に失敗し、1999年12月31日に大統領を辞任し、自身の汚職に対するあらゆる訴追を避けるため、大統領経験者の終身の不逮捕・不起訴特権と引き換えにロシア連邦の大統領代行にウラジーミル・プーチンを指名した。多くのロシア人にとって、こうした状況は大きな屈辱となった。冷戦状態の下でアメリカと共に世界を二分して管理していた時代は終わり、ロシアは軍事力を維持しながらも、国土を減らし、東欧における影響力の多くを失った。

 

だが、こうした失敗は予測できるものだった。指導者たちがどんなに真剣で、決然とした意志を持っていたとしても、独裁体制と欠乏状態の統制経済しか経験したことのない国民の間に、民主的な政治と自由主義経済を短期間で浸透させることなどできるはずもない。ポーランドやチェコスロヴァキアも、両大戦間には政治面でも経済面でも民主化を果たすことはできなかった。

 

しかしこの二つの国は完全な失敗というわけではなかった。1990年代には、20年代から30年代にかけて民主化運動に参加した少なからぬ人々がまだ健在で、当時を懐かしみ、自由な民主主義体制の構築を強く望んでいた。一方ロシア人は、ツアーリの鞭がソビエト連邦共産党(CPSU)党員の監視の目が光る強制収容所に代わっただけで、何を要求すればいいのかさえわからないまま、少しでも良い世の中を夢見ることしかできずにいた。

 

共産党の独裁体制が崩壊すると、環境も政治文化も十分でなく、議会はむしろ混乱の場となった。統制経済から抜け出した先にあるのは、喰うか喰われるかの世界、そして旧体制のアパラチキ(共産党出身官僚)による国の主要財産の独占だった。

 

ウラジーミル・プーチンが政権に就くとロシア国家は立ち直ったが、政治面での民主主義は少しも進展しなかった。KGB(ソ連国家保安委員会)の元職員だったプーチンは、当然のことながら、民主主義の確立のために頼るべき人物などではなかった。

 

若い頃からUSSRの特権的権力に慣れ切っていたプーチンは、ロシアの財貨を横取りして富豪になった旧アパラチキが怪しげな方法で独占していた資産を、国家と友人の政治家たちのために取り戻した。プーチンはこれを彼独自のやり方、つまり不当逮捕やでっちあげの訴訟、さらには必要とあれば、ボリス・ネムツォフがクレムリンの前で殺されたように、暗殺もいとわなかった。

 

ロシアの財政は、原材料、とりわけエネルギー資源の売却によってその一部が支えられている。現在は、石油やガスの価格暴落がロシア経済に影響を及ぼしているが、価格はいずれ上昇するだろう。ロシアの財政難には、エネルギー資源の価格暴落の他に、東ウクライナ紛争への軍事介入に対する欧米の制裁措置が影響している。財政難が年金生活者に及ぼす影響は深刻で、高齢者の間ではソ連時代へのノスタルジーが高まっている。

 

そのためプーチンは、2000年から2015年までに年金総額を12倍に増額した。2011年から2012年にかけては、プーチン政権を揺るがしかねない反政府運動が起こり、特に冬の最中に各地で繰り広げられたデモの参加者は10万人にも上った。しかし、デモはしだいに鎮静化し、今ではプーチンが次期大統領に再選されることを疑う者はほとんどいない。
〔編集部注:2018年3月19日にプーチンは通算4期目となる再選を果たした〕

 

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パリ第一大学教授

1953年マルセイユ生まれ。プロバンス大学卒。パリのソルボンヌ大学で博士号を取得。フランスの哲学者。高等師範学校、アミアン大学などの勤務を経て、パリ第一大学教授。現代フランスの哲学、歴史、科学哲学が専門領域。哲学関連書を初めとする著書多数。

著者紹介

連載フランスのグランゼコールで求められる「エリートの教養」

本連載はジャン-フランソワ・ブラウンスタン著『グランゼコールの教科書 フランスのエリートが習得する最高峰の知性』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

グランゼコールの教科書 フランスのエリートが習得する最高峰の知性

グランゼコールの教科書 フランスのエリートが習得する最高峰の知性

ジャン-フランソワ・ブラウンスタン

プレジデント社

シャルル・ド・ゴール、フランソワ・ミッテラン、ジャック・シラク、エマニュエル・マクロン、ジャン=ポール・サルトル、ジャック・デリダ、ジャック・アタリ、エマニュエル・トッド、トマ・ピケティ…きら星のごとく政界、財…

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