はじめに
資産形成は老後資金のみならず、自助努力が求められる流れになってきた。2019年6月に、金融庁の金融審議会で報告された長寿社会の日本における「老後資金の2,000万問題」が世間で大きな物議を醸した。「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば*1」、公的年金の他に、2,000万円の金融資産が必要だと提唱された。こうしたこともあり、老後資金の早めの準備など、将来のために資産形成を始めたいと考える人が多くなっている。
資産形成の手段においては預貯金、債券、株式(個別株)、投資信託、不動産などがある。しかし、数ある資産形成手段の中で、なぜ株式インデックス投資が魅力的なのかを、まず初めに説明してみたい。
現状、預貯金は安全性が高いが、低金利環境で収益性は極めてゼロに近い。個人向け国債も元本割れリスクがなく安全性が高いものの、低金利で収益性が低い。一方で、株式は後ほど説明するが、価格が短期的に大きく変動するリスクはあるが、収益性が高く、分散や長期投資等でリスクを抑制することもできるため、長期の資産形成に向いている。
株式に投資する方法はいくつかある。まず、株式の個別株に投資する場合は、多くの銘柄から自らのニーズに合わせて自由に選択し投資することができる。しかし、企業に関する情報収集などの手間と一定以上の金融知識が求められ、また、1銘柄当たり最低でも投資資金として数万円程度を要するため、リスク軽減のために多くの銘柄へ分散投資するには相当な金額が必要となる。そのため、投資の初心者にはハードルが高い。
一方で、株式投資には、投資信託という、専門の運用会社が投資家から集めたお金を一つ大きな資金としてまとめ、株式などに、国・地域と業種に分散投資できる*2手段がある。最低金額も100円から始められるものがあり、少額から手軽に投資できる。
投資信託の中ではさらに、プロの運用者が選択した比較的少数の銘柄を組み入れて各種指数を上回る収益を目指すアクティブ型投資信託と、各種指数と同様の値動きを目指すインデックス型投資信託に分けられる。
主要な市場インデックス型投資信託はニュース等でも報道される有名な株式市場の各種指数の動きと連動しており、値動きが把握しやすい。また、20年、30年後のための資産形成の場合、コストがとても重要になるが、インデックス型投資信託は、一般的にアクティブ型投資信託よりコストが安い。また、インデックス型投資信託は数多くの銘柄を組み込んでいるので、少数の株式に投資するよりもリスクが分散されており、相対的にリスクが小さい。以上のことから、株式インデックス投資は、資産形成の手段として初心者に適していると筆者は考えている。
本稿では、通常ファイナンスで使われる統計学の専門用語をなるべく使わずに株式インデックス投資について説明してみたい。
株式投資と言えば一般的にまだまだ怖いというイメージを持つ人もいるが、実は株式インデックスに長期投資をすれば、ある程度リスクを低減できる。ただ、日本で投資できる1,000種以上のインデックス投信商品から、どれを選んだらいいのか戸惑ってしまう方もいるだろう。そこで、本稿では主要な株式インデックスについて紹介し、過去のデータに基づいて、どの株式インデックスを選択すべきだったかについて確認したい。
さらに、一括投資と積立投資の違い等についても説明する。最後に、国が自主的な老後のための資産形成を支援する目的で整備した制度である「確定拠出年金」における資産配分について考えたい。今後老後のための資産形成の際に参考になるような情報を提供してみたい。
*1:金融審議会「市場ワーキング・グループ報告書」(2019年6月3日)16頁より抜粋。
*2:投資信託協会ウェブサイト「投資信託を学ぼう」―「そもそも投資信託とは?」を参照した。