本記事では、ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏が、「出世地図」と少子化対策について考察していきます。
東京一極集中で激変した「出生地図」-都道府県4半世紀出生数減少率ランキングは何を示すのか (写真はイメージです/PIXTA)

四半世紀で東京都の出生数は増加、「多子化」へ

TFRを少子化ベンチマークとしている自治体に警鐘をならすデータを示したい。東京一極集中とは1997年の東京都への男女の転入超過開始を起点(女性は96年から転入超過を開始)とする、東京都への他のエリアからの右肩上がり転入超過による人口増加のことである(図表4)

 

【図表4】1997年~2020年 東京都男女別転入超過人口(人)

 

女性一極集中が始まる前年95年から2020年における都道府県別出生数の減少率をランキング形式で確認すると、全国平均で約29%の減少率となった(図表5)。わずか四半世紀で出生数が7割水準となった。しかもその内訳をみると都道府県間で驚くべき出生数の減少率格差が生じていることがわかる。

 

約5割も減少した5つのエリアは全て東北エリアとなった。特に福島県と山形県は1970年から2020年の50年間減少率と比べると大きくランキングを上げる結果となっており、特にこの25年で出生数激減が発生したことがみてとれる。福島県は2011年に発生した東日本大震災・原発事故を端緒に、より多くの女性が県外へ転出超過するようになった。その後も10年以上にわたり女性の転出超過数が常に全国トップクラスであり、出生数減少に拍車がかかる形となった。山形県は1992年に山形新幹線が開通し、仙台の先の東京へのアクセスが格段によくなった。東京での就業への検討の高まりが女性流出に影響している様子が2020年に実施された東北活性化研究センターの意識調査結果からもうかがえる。

 

四半世紀で出生数を半減させるエリアが出てきたその一方で、出生数の減少率の全国平均を29%水準にまで抑制することに貢献したのは12エリアで、中でも東京都は50年間の出生数減少率では約6割減であったが、この四半世紀では出生減どころか103%の出生数増加エリアに転じ、唯一少子化を免れ多子化エリアに変貌した。

 

それほどまでに東京都に若い女性人口が集中したのである。コロナ禍中も東京都は20代前半の就職期の未婚女性を中心に転入超過させ続けた。9割超が未婚者の20代前半の若い女性が地方から横滑りで東京都に転入することによって、東京都のTFRは、計算上は何もしなくても引き下げられる。東京都の出生数の増加に加え、低TFR、高未婚率、待機児童の多さ等は、地方からの未婚女性の流入数の多さに起因していることに気付かねばならない。

 

【図表5】1995年~2020年 都道府県出生数減少率ランキング(人、%)

 

地元を去り行く女性を顧みない政策に人口の未来なし

都道府県出生数増減は女性の転出超過数と高い相関がある(TFRの高低ではない)と講演会等で繰り返し伝えてきたが、いまだに認知浸透は遅い。

 

現行の少子化対策に大きな変化が伴うことへの拒否感の強さからか「女性の転出減がテーマならば、少子化対策課担当業務外である」との現場の声も仄聞する。あえて有効なエビデンスへの対応を無視したかのような「域内に残っている女性かつ既婚者への支援」政策への固執の背景には、若い女性の県外流出に対する極端なまでの危機感のなさ・鈍感さがある。

 

妊活・子育て支援等の既婚者(離死別者を含む)政策は、全て「地元に残る女性を対象」とした政策である。若年未婚女性の流出による出生数減少の大きさを軽視する政策のベースには「エリアの持つ古い家族・労働価値観を頑なに変えない」「地元に残らない人は視野にいれない」社会風土が感じられる。

 

統計的に見れば若い女性が去り行くトレンドのエリアに人口増加の未来はない。四半世紀で激変した「出生地図」は、若い女性人口を集める東京都の人口の未来が明るい結果となったことを我々に示しつつ、現行の地域少子化対策に欠けている「人流の視点」の重要性を強く訴えかけているといえよう。