給与が増えても「生活がラクにならない」カラクリとは?
さて話は戻り、岸田首相による賃上げ対策です。まだ具体的な方法は示されていませんが、給与が増えれば嬉しくない人はいないはず。日本は「世界でも給与の上がらない国」であることは、すでに多くの人が知るところ。
OECDによると、1990年、主要国の従業員1人当たり平均年収(平均賃金)で、日本は3万9,415米ドルで10位。それから30年たった2020年、日本の平均年収は41,164米ドルで20位。世界のなかでも給与伸びが悪い国のひとつです。
【世界主要国「会社員の年収」トップ10】
◆1990年
1位「スイス」73,226米ドル
2位「ルクセンブルク」54,192米ドル
3位「オランダ」49,631米ドル
4位「デンマーク」49,313米ドル
5位「アイスランド」47,053米ドル
6位「米国」46,975米ドル
7位「オーストラリア」43,480米ドル
8位「ベルギー」41,697米ドル
9位「オーストリア」40,971米ドル
10位「日本」39,415米ドル
◆2020年
1位「スイス」92,555米ドル
2位「アイスランド」78,032米ドル
3位「ルクセンブルク」74,914米ドル
4位「米国」69,392米ドル
5位「デンマーク」68,406米ドル
6位「ノルウェー」62,920米ドル
7位「オーストラリア」60,197米ドル
8位「オランダ」57,307米ドル
9位「アイルランド」56,306米ドル
10位「カナダ」53,879米ドル
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20位「日本:41,164米ドル
出所:OECD
失われた30年からの脱却に期待がかかりますが、ただ給与が上がっただけでは、私たちの生活は楽になりそうもありません。
総務省『家計調査』で単身勤労世帯の「勤務先給与」と税金や社会保険料などの「非消費支出」をみていくと、2021年、勤務先給与は33万8,106円。それに対して消費支出は6万4,219円(直接税2万5,287円、社会保険料3万8,906円)でした。
経年でみていくと、社会保険料が大きく増えていることがわかるでしょう(図表)。日本人の給与は2010年あたりをどん底に徐々に回復傾向にありましたが、社会保険料の増加などを理由に、手取り額はそれほど増えていない、という事態に陥っていたわけです。そのため余計に「給与が増えない」と感じていたのでしょう。
日本の高齢化率は29%。2040年には35%を超えるといわれています。それに伴い、社会保険料などの負担はますます大きくなることは確実でしょう。このままでは私たちの手取りは、さらに減少することは必至なのです。
このような状況下、賃上げ対策による効果が社会保険料等の増額のスピードを上回ることができるか、といえば、懐疑的になってしまうことでしょう。日本人の給与をあげることは、相当難しいこと。それでも岸田首相の具体的な一手に期待するしかない、そんな末期症状に私たちは陥っているのです。