今回は、包括遺贈と特定遺贈の違いについて見ていきます。※本連載は、日本ファンドレイジング協会(代表、鵜尾 雅隆氏)刊行、『遺贈寄付ハンドブック』の中から一部を抜粋し、遺贈寄付の基礎知識とその留意点について紹介します。

被相続人の借金や連帯保証債務引き継ぐ「包括遺贈」

Q:包括遺贈と特定遺贈はどう違うのですか?

 

A:遺贈する財産を特定するかしないかの違いですが、法的には大きな違いがあります

 

「包括遺贈」とは、被相続人の個々の財産を特定しないで行う遺贈です。包括遺贈には、遺言者の財産の全部を一人の受遺者に帰属させようとする「全部包括遺贈」と一人又は数人の受遺者に対する財産の帰属の割合を示す「割合的包括遺贈」とがあります。

 

包括遺贈の場合の包括受遺者(民間非営利団体)は、相続人と同一の権利義務を有します。従って、積極財産のみならず消極財産も承継します。そのため、被相続人に借金や連帯保証債務があれば、それも引き継ぎます。従って、包括遺贈を受ける場合には、被相続人の財産債務を精査する必要があります。

「特定遺贈は基本的に消極的財産の承継はしない

一方、「特定遺贈」とは、「金1000万円を遺贈する」というように、被相続人の個々の財産を特定する遺贈です。特定遺贈の場合には、消極財産は特定遺贈の目的となっていない限り承継しませんので、被相続人の借金や連帯保証債務を受遺者である民間非営利団体が承継することはありません。

 

もし、民間非営利団体が包括遺贈を受けた場合で、多額の債務を引き受ける可能性を避けたいのであれば、限定承認という選択肢が考えられます。

 

限定承認とは、遺贈により得た財産の限度の範囲内で債務を引き受けることです。ただし、限定承認は、相続人も全員限定承認をする必要があるため、他の相続人や受遺者の存在を前提とする割合的包括遺贈の場合には、使いにくいのではないかと思います。また、限定承認をする場合には、包括受遺者は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述をする必要があります。

 

また、包括遺贈、特定遺贈いずれの場合でも、受遺者である民間非営利団体は遺贈の放棄をすることができます。遺贈の放棄とは、積極財産も消極財産も、一切遺贈を受けないことです。遺贈の放棄は、相続人の意向に関わらず、受遺者の判断で実行することができます。

 

ただし、包括遺贈の場合には、包括受遺者は相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしない場合には、遺贈を承認したものとみなされます。この期間(熟慮期間)は、相続財産調査の必要がある場合などに、家庭裁判所に伸長を求めることができます(限定承認の場合も同様です)。これに対して、特定遺贈の放棄は相続人又は遺言執行者に放棄の意思を伝えるだけで遺贈の放棄ができます。

本連載は、2016年3月12日刊行の書籍『遺贈寄付ハンドブック』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

遺贈寄付ハンドブック

遺贈寄付ハンドブック

鵜尾 雅隆,齋藤 弘道,樽本 哲,脇坂 誠也

特定非営利活動法人 日本ファンドレイジング協会

遺贈寄付の基本知識をQ&A形式で分かりやすく解説したハンドブックです。 高齢化に伴い、相続財産の寄付や遺言による寄付の関心が高まっています。しかし、法務的、税務的なリスクや経験不足などで進んでいない状況です。 受…

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