(※写真はイメージです/PIXTA)

2022年4月から、中小企業でもパワハラ防止措置が義務化されます。適切な対策を講じていない場合、パワハラ発生の際に企業の責任を追及される可能性もあります。会社としてどう対応したらよいのでしょうか? また、実際にどのようなリスクがもたらされるのでしょうか。現場で数多くの事例に対処してきた特定社会保険労務士・石川弘子氏が解説します。

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職場のパワハラ…どこからが「アウト」なのか?

企業の管理職の方から「最近は何かを注意するだけでパワハラと言われる」「仕事のミスをした部下を叱ったら、パワハラと言われてしまった」という話を聞くことがあります。

 

ニュースなどでパワハラに関する裁判が流れると、(自分も訴えられるのでは?)と不安になる管理職も少なくないと思います。

 

では、いったいどこからがパワハラとされるのでしょうか?

 

■パワハラの定義

職場におけるパワハラについては、以下①~③までの要素を満たすものと定義されています。

 

①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること

③労働者の就業環境が害されるものであること

 

内容の詳細を見ていきましょう。

 

【①優越的な関係を背景とした言動】

⇒一般的に、上司の方が部下より優越的な立場にあるとされますが、それだけに限りません。インフォーマルな人間関係により、同僚同士のパワハラや、上司より専門知識がある部下が上司に行う「部下からのパワハラ」のようなケースもあります。

 

【②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動】

⇒たとえば、遅刻をした部下に対して、大勢の社員の前で何時間も説教したり、怒鳴ったりなどは、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」であると言えるでしょう。

 

【③労働者の就業環境が害される言動】

⇒③は、その言動によって、身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快となっているか?という視点です。たとえば、上司が怒鳴るのでパワハラを受ける人も周囲の人も緊張して本来の能力が発揮できないというケースです。

管理職もパワハラ被害者になりうる

■事例:部下全員に無視され、うつ病になった管理職

実際に筆者が相談を受けたパワハラの事例を見ていきましょう。

 

東京から地方営業所に所長として赴任してきた高橋さん(仮名・40代男性)は、慣れない営業所での業務に苦労していました。思うように結果が出ず、営業所内の空気もぎくしゃくしています。

 

部下は全員、地元出身で、東京から来た新任の所長に対して「東京とは違う」「所長のやり方には賛成できない」と反発し、しまいには「所長はXX大学出だって聞いていたのに、まったく使えない」「所長の言う通りにしても結果は出ない」と言って、所長の挨拶すら無視するようになったのです。

 

部下から無視され、仕事もうまくいかず、高橋さんは段々とメンタル不全になり、数ヵ月後にうつ病と診断されてしまいました。

 

その後、高橋さんの奥様が「夫がうつ病になったのは、部下からのパワハラが原因」と会社に訴えてきました。話し合いの末、会社は高橋さんに対する部下からのパワハラがあったことを認めて謝罪し、高橋さんの希望により配置転換を行うことで解決することができました。

 

■パワハラの代表的な言動

高橋さんの事件では、「部下からの無視」が問題とされました。では、その他にどのような言動がパワハラとされるのでしょうか? 代表的な言動は次の通りです。

 

①身体的な攻撃:殴る、蹴る、物を投げつける

②精神的な攻撃:「バカ」「親の顔が見たい」等の人格否定発言をする、大声で怒鳴る、机をたたく

③人間関係からの切り離し:仲間はずれにする、無視する

④過大な要求:達成不可能な目標を与え、できないと厳しく叱責する

⑤過小な要求:気に入らない部下に仕事を与えない

⑥個の侵害:職場外でも継続的に監視する、個人的な情報を不必要に暴露する

 

これらはパワハラの典型的な言動を類型化したもので、これに該当しないからといって、必ずしもパワハラにならないということではありません。

企業が講じるべき「パワハラ対策」とは?

■「パワハラ対策を行っていたか否か」が企業の“明暗”を分ける

パワハラが起こった場合、加害者だけの責任では済まされません。企業にも様々なリスクが生じます。

 

その際に、「企業としてパワハラ対策をきちんと行っていたのか?」というのは、訴訟等になった場合、重要なポイントになります。何も対策を行っていなかった中でパワハラが起こったとなれば、企業の責任が大きく問われます。

 

パワハラは、損害賠償支払いなどの金銭的なリスクの他にも、企業にとって様々なリスクをもたらします。SNS等による風評被害、人材の流出、職場の生産性低下など、経営に大きく影響を与えるリスクが潜んでいます。

 

■パワハラを防止するには?義務付けられている「パワハラ対応」

パワハラを防止するために、企業には以下の対応が義務付けられています。

 

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

パワハラの内容やパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、社員に周知・啓発します。「パワハラは絶対に許さない!」というトップの強いメッセージが必要です。

 

②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

パワハラの相談窓口等を設けて、社員に周知します。社内で対応が難しい場合、外部の専門家に依頼するなど検討してみましょう。

 

③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

パワハラが起こってしまったら、速やかに事実関係を把握し、被害者に配慮した措置を適正に行いましょう。その後、加害者に対する措置を行うとともに、再発防止策を取ることも必要です。

 

④そのほか併せて講ずべき措置

相談者(被害者)、加害者のプライバシーを保護するようにしましょう。また、相談したことを理由として、相談者に不利益な取り扱いをすることなどがないようにしましょう。

 

しかし、これらの対応をしても、完全にパワハラがなくなるということはありません。パワハラの根底には、不適切なコミュニケーションや、相手に対する敬意の欠如があります。

 

「自分の部下だから」「自分より能力が劣っているから」「新人だから」といっても、人としては対等であり、敬意を持つべき1人の人間です。

 

誰に対しても人として敬意をもって接する、という価値観が、パワハラ防止にはとても大切です。

 

 

石川 弘子

フェリタス社会保険労務士法人 所長

特定社会保険労務士

ハラスメント防止コンサルタント

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