娘の心に深く食い込み、人格さえ蝕む母の“毒”。 その呪縛から脱し、人生を取り戻すための遥かなる道のりとは。 本記事では、埼玉工業大学心理学科教授の袰岩秀章氏が、実際のカウンセリング事例をもとに「心の解毒」とセルフケアのメソッドを紹介する。
「どうせあたしが悪いと言うんでしょう」…臨床心理士が解説「子どもを嫌悪する毒親」の心情 (※写真はイメージです/PIXTA)

私は面倒見切れません、先生何とかしてください。

この人の娘は小学生より摂食障害だった。その娘がまだ小学生の頃、父親だけ一度相談に来たことがあった。大変若い父親で、大学生のときにアルバイト先の娘と結婚して、すぐに娘が生まれたそうだ。年上の奥さんである。

 

はじめは娘が冷蔵庫のものを盗み食いをするという話であったが、実は幼稚園のときから人のものを食べるといったことがあり、食べたあと吐くなどの行為も見られたため、摂食障害が疑われた。

 

この時点では、母親の育児の状況が語られることはなかった。「妻は娘には厳しいのでそれが原因なのだろうか」とだけ話し、具体的な態度を尋ねてもそれ以上のことは言わなかった。

 

父親としてできることをアドバイスするとともに、「ぜひ、ご夫婦で一度いらしてください」とすすめた。一瞬だけどうしようかなという顔をしたが、すぐに「いや、無理です」と力なく答えて、「自分でやってみてうまくいかなかったらまた来ます」とだけ言って去っていった。その後は音沙汰がなかった。

 

それから10年前後して母親が娘を連れて現れたのである。「私は面倒見切れません、先生何とかしてください」というセリフとともに。夫は来談したことを妻に話していなかったが、妻が娘に何度も逆切れするのを見て、ようやく相談に行くようにすすめたのだった。父親はとうとう再訪しなかった。

小学生から摂食障害が疑われていた娘は…

小学生から摂食障害だと思われたその娘は、大学生になったところだが背丈も小学生くらいであり、生理はこの年齢までなかった。医療の支援は婦人科におけるホルモン治療だけで、精神科、神経科、心療内科といったところには行ったことがない、と言う。

 

食事を十分与えられなかったために、母親に隠れて食べるようになり、それを咎められて吐き戻したあたりから、次第に食べては吐くことを繰り返すようになったようである。

 

この母親の毒親ぶりは、「おまえのせいであたしは大変なんだ」ということを繰り返し吹き込むところに現れていた。食事は十分に与えない、着るものや勉強に必要なものも最低限与えるだけ、PTAなどには行かない、娘のためにお金も時間もかけたくない。母親はもともと高級割烹の末娘でわがままに育てられたところがあり、家事、育児などには関心がなく、確かにこの人が子育てをする姿は思い描きにくい、という人であった。