習近平国家主席は中国共産党創立100周年にあたる2021年7月1日の祝賀行事において、党規約にある「2つの100年奮闘目標」の1つ目「党創立100年までに小康社会全面建設完了」が達成されたと宣言した。そして今、2つ目の目標実現のための新たな政治スローガン「共同富裕」が注目を集める。果たして現下の中国政治経済にとって何を意味するのか。歴代の指導者が提唱したスローガンを振り返りながら検証する。

◆社会主義初期

毛沢東は1953年、「農業生産合作社を発展させる決議」で、手工業や資本主義的商工業を段階的に社会主義化し、農業の社会主義化、合作化を通じて「共同富裕」を実現するとした。また1954年頃から、「豊かで強くなる」という発展目標を提起し、「この富は共同の富」「この強は共同の強」であるとした。

 

当時の考え方を表す有名な概念は、1958〜60年頃の人民公社化や「大躍進」時代に生まれた「大鍋飯」、つまり「同じ1つの鍋から皆が分け合って食べる」。しかし当時の生産力は著しく低く、「大躍進」の失敗や文革に伴う混乱から経済は停滞し、「均富」、つまり等しく豊かになるどころか、「均貧」、等しく貧しくなっただけに終わった。その結果、現在、「大鍋飯」は「過度の平等主義、悪平等」といった否定的な意味として使われている。

 

◆鄧小平「先富後富」

鄧小平は「社会主義は貧困を消滅させる必要がある。貧困は社会主義ではない」との主張の下、1985年、全国科技工作会議で「社会主義の目的は全人民の共同富裕で、両極分化ではない」とした。以降、「農村も都市も一部の者が先に豊かになることを許し(允許(ユンシュー))、先進地区が後れた地区を先導し(帯動)助ける。

 

そして最終的に共同富裕を実現する」という「先富起来、先富後富」論を展開し、そのために改革開放を遂行。「允許」は誰を先に豊かにするかを決めるのはあくまで党という意味で、計画経済としての限界を示したとの解釈ができる。なお中央財経委での「先富起来、先富後富」への言及は、「共同富裕」推進は鄧小平の政治的遺産の延長にあることを示し、推進に伴う批判、反発を和らげる意図があったと思われる。

 

◆パイ論争

30余年におよぶ改革開放の間、高い経済成長を記録する一方、貧富の格差が拡大。2010年に党内部で、経済効率と分配の公平の関係について議論が沸騰(下記図)。当時広東省書記だった汪洋現常務委員・全国政治協商(政協)会議主席と、薄熙来元重慶書記の間で交わされた「蛋糕(ダンガオ=パイ)論争」がその典型。

 

 (注)せりふは「このようにパイを分けてはだめ」、「央企高管」は「中央企業幹部」、「天价薪酬」は「超高額報酬」。<br>(出所)2010年3月10日付騰訊新聞が人民網から転載
パイ論争(注)せりふは「このようにパイを分けてはだめ」、「央企高管」は「中央企業幹部」、「天价薪酬」は「超高額報酬」。
(出所)2010年3月10日付騰訊新聞が人民網から転載

 

薄氏が「重慶は分配問題を考えるにあたり、発展を待つ必要はない。まずパイをうまく分配した後、パイを大きくする」としたのに対し、汪氏は「パイを大きくして初めてうまく分配することができる」とし、「パイを大きくすることがなお政策の重点であるべき」と反論。その後薄氏は「民粹(ミンツイ)主義」、つまりポピュリズムと批判され失脚した。

 

今回、新華社など官製メディアは、メンバーではない汪氏が中央財経委に「出席」したとし、かつ習氏、李克強氏に次いで記載。それまでは汪氏を単なる「列席」としてメンバーの後に紹介していた。こうした扱いの変化は、同委が提唱する「共同富裕」が汪氏の「パイ論」の延長にあることを示す狙いだろう。実際、2021年12月中央経済工作会議は「まずはパイを大きくし、その後合理的制度を通じて分配」と明記。

 

◆習政権での貧困解消宣言

習政権は第18回党大会(2012年)以来、「貧困支援に的を絞る(精准扶貧)」「2020年までに貧困解消、小康社会全面建設」「2035年までに共同富裕がより明らかな実質的進展を遂げること」を提唱。2021年に2020年目標が達成されたと宣言。

 

◆浙江を「共同富裕」モデル地区に

2021年6月、党中央・国務院が「共同富裕モデル地区として浙江を支援する意見」を発出。浙江は経済発展不均衡の問題解決で成果を挙げており、モデル地区としての基礎が整っているとされ、2025年までに実質的進展、2035年までに「共同富裕」を基本的に実現する「2段階発展目標」を提示。これを受け7月、浙江が実施方案(2021〜25年)を発表。2025年までに1人当たり平均可処分所得75000元、世帯収入10万〜50万元、20万〜60万元が各々全体の80%、45%を占めること、労働報酬の対GDP比50%以上などの目標を設定。

 

2022年2月、これらを達成するための具体策として、「8+9」を骨子とした「“拡中”“提低”行動方案」を準備中であることを公表。中間層を拡大し(拡中)低収入層を引き上げる(提低)ため、科技関係者、中小零細事業者、農民、(ベンチャー企業立ち上げなど)新たな雇用形態の労働者など9つのグループに分けて差別化した、就業促進、能力開発など8つの実施ルートについての実施策をまとめたものになる旨。なお、浙江はIT企業大手のアリババの本拠地。

 

次回は、「共同富裕」をスローガンとせざるを得ない、拡大を続ける中国の「格差」について実情を探る。

 

 

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