現行の生活保護制度は給付水準がかなり高めに設定されており、生活保護者たちを「働かせる気がない」といえる。ここでは、どうすれば改善できるのかについて、前日銀副総裁・岩田規久男氏が解説する。 ※本連載は、書籍『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「生活保護を受けているほうがはるかに楽」…「貧困のワナ」に陥る日本社会からの脱却 ※写真はイメージです/PIXTA

「生活保護から抜け出せない」問題を解決するには…

生活保護制度の最大の問題は、生活保護受給者になるためには資産調査などの厳しい関門があるが、いったん受給者になったらやめられないという点にある。やめて、ワーキングプアになるよりも受給者であり続けるほうが、はるかに生活が楽だからである。

 

こうした問題を解決するためには、まず、雇用保険の加入期間が短いため、失業しても雇用保険金の受給資格のない人を稼働能力があるかどうかで選別し、稼働能力がある人は、以下に述べるように改革された就業支援制度の対象にし、生活保護制度の対象にしないことである。

 

日本には稼働能力層を対象にする求職者支援制度がある。この制度では、雇用保険を受給できない人を対象に、民間の教育機関が実施する職業訓練を受ける代わりに、生活費として月額10万円が原則1年間支給される。

 

しかし、月額10万円は生活保護費に比べてあまりに少額である。鈴木亘(2014)はこれを、住宅扶助を含めた生活保護費と同じ水準に引き上げることを提案している。

 

著者はかねてから、このように生活費を引き上げた上で雇用保険を改革し、求職者支援制度対象者に雇用保険が提供する就労支援・促進プログラムへの参加を強制する案を考えていた。

 

そのように考えていたところ、厚生労働省は2014年度の改正で、求職者支援制度に求職者支援訓練を導入し、さまざまな訓練コースを設けるようになった。

 

例えば、厚生労働省東京労働局のホームページを見ると、2021年7月開講の訓練コースの案内が出ている。コースは基礎コース(「初心者からできるビジネスパソコン基礎科」など)と実践コース(「アプリ・WEB・システムエンジニア養成科」など)から構成されている。

 

著者はさらに進めて、雇用保険受給資格のない失業者に対して、雇用保険金ではなく、税金で雇用保険並みの給付金を補助し、その他は雇用保険受給者とまったく同じ条件で就労支援する制度が望ましいと考える。これは、求職者支援制度(ただし、右のように改革した制度で、現行の制度ではない)と雇用保険制度の統合に他ならない。