「どうしてこんな目に…」とは、働いていたら誰しも一度は感じるもの。技術コンサルタント、心理カウンセラーである永嶋良一氏が紹介するのは、化学プラントの仕事をしていた際、「全責任を押し付けられそうになった」という事態。あなたならどうしますか?
「大急ぎで、こちらに来てくれ」課長の言葉に従って大撃沈のワケ【心理カウンセラーの実話】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「もし何か起こったら…」耳を疑う一言

「実は生産計画に失敗して、このままだと今期の生産量が未達になってしまうんだ。ただ、明日から生産量を1日14バッチに上げれば生産計画を達成できる。永嶋、お前は1日16バッチまで能力を上げることができると言っているが、我々には自信がない。そこでだ、永嶋。我々は明日から1日14バッチの運転に入りたいのだが、もし何か起こったら、お前が全責任を取ってくれ」

 

私は耳を疑いました。生産計画に失敗したから、能力を上げた運転がしたい。しかし、自分たちには能力アップの自信がないから、能力アップに失敗して設備の故障などが発生したら私が全責任を取れとは、なんと虫がいい話なのでしょう。

 

課長は、はっきりと「失敗したら、お前が全責任を取ってくれ」と言いました。こんな話を聞き間違えるはずがありません。これで、私は、製造班長が「人身御供が来た!」と叫んだ理由が理解できました。

 

私は、製造班長とは親しかったので、彼は彼なりに「お前が人身御供にされる話だから注意しろ」と私に警鐘を鳴らしてくれたのです。こんな無茶苦茶な話は、私も聞いたことがありませんでしたが、私は自分の検討に絶対の自信を持っていましたので、課長にこう答えたのです。

 

「〇課長。いいでしょう。その話、受けましょう。明日から1日14バッチに生産量を上げてください。それで、もし何かトラブルが起こったら、私が全責任を取ってあげましょう」

 

その間、製造班長と運転班長は一切口を開きませんでした。そして、その日のうちに、プラントの主要な運転条件を私から課長に連絡したのです。

 

翌日から、いきなり1日12バッチから14バッチに生産能力を上げた運転が始まりました。結果から言うと、私の検討どおり、何も異常は起こりませんでした。

 

そして、その運転課では「うちの課が検討して1日14バッチを達成した」と本社に報告したのです。私の名前は完全に闇から闇に葬られました。

 

こんなにも人の功績を横取りする会社の風潮に嫌気がさすとともに、私が懸命に調査した1年間の努力は何だったのか、という激しい無力感にとらわれたのは確かです。