2021年、東京都が設置の義務付け制度の導入を発表し、注目が集まった「太陽光発電」。実際にかかるコストは、他の発電手段と比較して、どの程度なのでしょうか。本記事では、元通産省官僚で、現在は株式会社二十一世紀新社会システム研究所代表の本田幸雄氏が、太陽光発電のコストについて解説していきます。
太陽光発電は「コスト最安値」の発電手段になり得るのか? (※写真はイメージです/PIXTA)

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世界のソーラー産業の重心が「中国」に移った背景

日本に代わってソーラー産業の世界一になったドイツは、間もなく、ドイツのQセルズが中国メーカーの挑戦を受けて、Qセルズ(ドイツのタールハイムに研究開発拠点を置く太陽電池モジュールメーカー)の市場シェアは低下しました。世界のソーラー産業の重心は、中国に移りました。

 

オーストラリア・シドニーの大学で太陽電池の研究をした施正栄は、2001年に中国の地方政府から600万ドルを調達して、サンテックパワーという会社(いわゆるベンチャー企業でした)を起業しました。

 

施正栄は「再生可能エネルギーでもっとも重要なことは、コストを下げることだ」と徹底的に製造コストを下げ続けました。わずか4年後にサンテックパワーはニューヨークの証券取引所で株の新規公開を行いました。2010年の売上高は30億ドルを超えました。

 

その後、世界の太陽光の発電量に占める中国の比率は2010年の2%から2018年に32%まで急上昇しました。世界で新設される設備の4割は中国製になっています。ソーラー産業は、ジンコソーラーなど中国勢が世界上位を独占しています。

 

日本市場も2013年は国内製品が7割でしたが、2019年には中国など海外製品が6割を占めました。中国は巨大な内需を背景に量産効果が出て価格競争力をさらに強めていっています。

 

逆に太陽光発電が軌道に乗り、習近平国家主席は2020年9月に二酸化炭素の「2060年ゼロ」を表明しましたので、さらに太陽光発電が加速するとみられています。

ダラト太陽光発電所と日本の発電コストを比較すると…

2020年9月、内モンゴル自治区オルドス市の砂漠地帯に建設されたダラト太陽光発電所は広さ67万平方キロメートルと山手線の内側に匹敵し、原発2基分の200万キロワットの発電能力を備えていて、コストは1キロワット時で4円強と日本の太陽光発電の3分の1を下回るまでになっています。この4円というコストに注目すべきです。

 

このように太陽光発電は規模の拡大と技術革新(後述します研究開発で発電効率をアップさせること、つまり、現在10%のものを20%、30%へと上げていくのです)の両面から攻めていけば、基本的には、電力が「ただ」と思えるほどになるのです。

 

かつてと比較すると現在の情報は「ただ」のようなものです。太陽光発電は、これからです。日本では太陽光発電で後れをとったと思う必要はまったくありません。

米企業ファーストソーラー社、コスト低減の背景には…

それにもかかわらず、世界最大の(コストが最低の)ソーラーパネル・メーカーは、アメリカ・アリゾナ州に本社を置く米企業ファーストソーラー社です。

 

一般的な結晶シリコンではなくテルル化カドミウム(CdTe)を使い、より低コストで様々な温度や太陽光の条件下でも発電能力の高いソーラーシステムを生産しており、ファーストソーラーの太陽電池はグリッドパリティ(再生可能エネルギーの発電コストが、既存の電力コストと同等、もしくはより安価になること)を達成したようです。

 

グリッドパリティの目安は、太陽電池システムの生産コストにして1ワット当たり1ドルとされますが、アメリカのファースト・ソーラーの1ワットの発電能力当たりの製造コストは、2007年には1.23ドル、2008年には1.08ドルでした。

 

それが2009年に1ドルの壁を突き破り98セントとなり、2012年に67セントになったことを発表し、2017年までに、太陽電池システムの1ワット当たりのコストはさらに下がり、40セント未満になることが見込まれています。

 

コスト低減の最大要因は生産効率の向上と規模の拡大です。実際にカリフォルニア州など1部地域でのグリッドパリティ達成が報告されました。まさに、太陽光発電革命が起きたのです。

太陽光発電は「コスト最安値」の発電手段になり得るか

ドイツの場合は、2012年にグリッドパリティに達しました。ドイツ以外でも、イタリアは既にグリッドパリティが達成されているとの指摘もあります。ヨーロッパでは、2012~2020年には条件の良い国・地域から、既存の火力発電などと発電コストで競うようになると見られ、既に条件の良い国や地域では既存の電源と同等、もしくはより安くなり始めています。

 

また蓄電して独立型のシステムとして用いる場合は、蓄電池や他の電源を組み合わせた場合のコストで論じられます。

 

一方、途上国で送電網が未整備な場合、消費電力に比して燃料輸送費や保守費が高い場所など(山地、離島、砂漠、宇宙など)では、太陽電池システムが現段階でも他方式に比較して最も安価な電源として用いられています。今後もさらなるコスト低減が見込まれており、中長期的にはコストが最も安い発電手段になると予測されています。

 

 

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本田 幸雄

1942年、島根県生まれ。東京大学工学部機械工学科卒業。通産省入省、重工業局、資源エネルギー庁、工業技術院、(文部省出向)長岡技術科学大学教授、通産省機械情報産業局、中国通産局長。

 

通産省退職後、医療福祉研究所、(財)愛知国際博覧会協会などを経て、現在、(株)二十一世紀新社会システム研究所代表。

 

著書に『21世紀の社会システム』、『水田ハ地球ヲ救ウ』、『ベンチャービジネス成功への決定的条件』、『西暦2000年への選択』(監訳)、『地球白書』(監訳)、『21世紀地球システムの創造』(共著)など。