物価が安く、気候が温暖なフィリピンでセカンドライフを送る年金生活者は少なくない。セブ島に住む岩渕夫妻も「北国から脱出」してきた一組で、現在、大雪に見舞われている秋田県の出身だ。雪の多い地域で高齢者が暮らす苦労は計り知れない。ここではノンフィクションライターの水谷竹秀氏が、雪国で暮らす高齢者の実態、南国への移住を決める日本人の実情について解説していく。※本連載は、書籍『脱出老人 フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち』(小学館)より一部を抜粋・再編集したものです。
「これ以上は無理だ」雪国で年金暮らし夫妻…セブ島での“越冬”を決めた決定的原因 厳冬期の2月になると、大館駅前には人の高さほどの雪が積もる(撮影:水谷竹秀)

「東北はねえ、冬はいるだけでお金がかかるんですね」

他にも私がこれまでに出会った年金生活者で、移住を決めた理由に気候条件を挙げる人は多かった。

 

「本当に寒がりで、冬眠したいぐらい寒いのが苦手です。私は血圧が高いんですね。日本では高い時は200を超えていました。通常は上が160で、下が80〜90ぐらい。日本では降圧剤を朝晩飲んでいました。でもフィリピンでは上がっても140ぐらいですから、高血圧にとって気候はかなり大きいです」(60代女性、フィリピン在住2年)

 

「こっちは暖かいから関節が痛くないですよね。フィリピンに来た方はみんな言いますよ。暖かいから痛くなくなったって」(60代男性、フィリピン在住2年)

 

「東北はねえ、冬はいるだけでお金がかかるんですね。暖房費だけでもバカにならない。フィリピンへは父と一緒に来たんです。毎冬、父は布団から起きられなかったですから」(50代男性、フィリピン在住1年)

 

そんな高齢者たちにとって、温暖な南国は「楽園」のイメージを与えてくれるのかもしれない。

 

 

水谷竹秀

ノンフィクションライター

1975年三重県生まれ。上智大学外国語学部卒業後、カメラマン、新聞記者などを経てフリーに。

2011年『日本を捨てた男たちフィリピンに生きる「困窮邦人」』(集英社)で開高健ノンフィクション賞受賞。他に『だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人』(集英社)など。

10年超のフィリピン滞在歴をもとに、「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材している。