(※写真はイメージです/PIXTA)

経営者が、後継者への事業承継のタイミングを決めきれず、気づいたら「手遅れ」状態になっていることは多々あります。会社のために身を引く形をとりつつも、事業に携わり続け安心できる事業承継の「仕掛け」を、相続終活専門協会・代表理事の貞方大輔氏が解説していきます。

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後継者に任せてもいいものか…事業承継に使える「株」

よくある経営者の悩みに「後継者は一応決まっているが、事業承継がなかなか進まない」というものがあります。自分の息子や、婿、親族外の社員…、後継者は一応決まっていても事業承継が進まない理由には2点が挙げられます。

 

1点目は、自社株の評価が高いゆえに、株を譲渡できないためです。

 

しかし、自社株評価を引き下げる税務上のルールは2017年から厳しくなっているものの、株価を下げる方法はまだまだあるので、株価を下げたのちに譲渡することが可能です。

 

2点目は、その後継者が本当に事業を承継できるのか判断しきれず、踏みとどまってしまうためです。

 

この場合、時間だけが過ぎてしまうので、気づいたら社長も高齢で「もう手遅れ」の状態になっていることがよくあります。

 

そんなときに使いたいのが「種類株式」です。約20年前の会社法(旧商法)改正により、普通株式だけでなく、いろいろな種類の株式が発行できるようになりました。種類株式は、次の事例のような使い方ができます。

 

 

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都内にある非上場企業(非公開会社)を経営している田中さんは73歳。

 

40年に渡り夫婦二人三脚で会社を大きくしてきました。現在、従業員20名の会社を経営しています。売上は10億円強。税引後の利益は毎年コンスタントに2000万円程度をあげています。後継者候補としては、自分の長女の婿を想定しています。

 

婿は45歳で専務をしています。長女は会社の経営には関わっておらず専業主婦。妻はコロナの感染が広まる1年前に、70歳を機に退職しました。その際、退職金をどさっと支払っています。退職金を支払ったため、自社株評価もちょうど下がっています。

 

さらに、コロナの影響で業績が少し悪くなってきたため、自社株評価はコロナ前とは異なります。

 

そこで、田中さんが持っている株式を種類株、ここでは無議決権株式(株主総会での議決権を持たない株式。通常の普通株と異なり、議決権を制限、もしくは持たないため、事実上経営に意見できない)にしたうえで、長女の婿専務に譲渡しました。

 

その結果、自社株の保有比率は、田中さん(社長)が1で、婿専務は9になりました。しかし、専務の株式は無議決権株ですので、事実上田中さんのワンマン状態は続きます。

 

さらに、株式の大半は専務が保有している状況なので、田中さんに万が一のこと(相続)が起きても、相続税の心配をする必要はありません(事業承継税制も選択肢には入りますが、デメリットが大きいのでここでは触れません)。

 

田中さんは10年後、83歳になったときに、自分が持っている残りの普通株を、専務もしくは10年後の後継者に贈与しようと考えています。どんなに株価が上昇しても、大半の株式は無議決権株にして専務に譲りましたし、残りはわずかなので株価の上昇も大して気になりません。

 

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次ページ業績を伸ばす「攻め」と、事業承継という「守り」

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