（トタン屋根の家が密集する吉岡さん宅周辺のスラム 撮影：水谷竹秀）
ジーナさんが日本から帰国…「激怒した」衝撃の理由
管理職まで任され、月給40万円以上を受け取っていた大手警備会社の退職理由については当初、社内の持ち株比率に関する規定に違反したためと説明していたが、実は借金だった。万一、消費者金融から会社に連絡が入ったら迷惑をかけると吉岡さんが懸念した上での判断だ。
「自己破産という手があるかもしれませんが、そしたらできる仕事も制約されるじゃないですか。警備会社を辞め、ジーナから紹介されたフィリピンパブで店長として働き始めたんですが、給料が半分ぐらいに下がって、利子の返済で手いっぱいになり、完済の見込みがなくなった。これが日本に帰りたくない1番の理由です」
2002年から吉岡さんは、ジーナさんと一緒にフィリピンと日本を行ったり来たりしたが、2004年5月を最後にこれまでの15年間、不法滞在のまま日本に一度も帰国していない（※）。
※ 2019年当時。
ちなみにフィリピンで不法滞在になった日本人を含む外国人は、相当数いるとみられる。捜査当局に見つからなければ拘束されることはないため、不法滞在でもフィリピン国内で暮らすことは可能だ。ただし法律上は一般の企業で働くことができないため、この国で生きていくためには何らかの「知恵」が必要になる。
私の知り合いの日本人男性には、不法滞在20年という「強者（つわもの）」もいる。
一方のジーナさんはその後、日本へ行き、四国のパブで働いた。ところがフィリピンに戻ってきたある時、別の日本人男性との間の子を妊娠していたことが分かった。
激怒した吉岡さんはジーナさんの自宅で言い争いになり、外からその様子を窺（うかが）っていた彼女の父親は「バカヤロウ」を意味するタガログ語を吉岡さんに向かって浴びせた。
「外へ飛び出してオヤジを追い掛けました。それで『お前何言うとんじゃこら。お前の娘が妊娠して謝罪もないんか？』と怒鳴りつけたんですけど、日本語やから相手は何を言われているのかさっぱりですよね」
吉岡さんはジーナさんの自宅を去ることにした。自宅と言っても吉岡さんの送金で建てられたものだ。だから、これまでの送金分を少しでも回収するため、日本へ戻るジーナさんから生活費を送ってもらうことで一応は話が付いた。
