オードリー・タンの母、李雅卿氏が創設した学校「種子学苑」。子どもたちは、何を学び、いつ休むかを自分で決める自主学習を行います。ここでは、学苑に通う生徒の保護者から寄せられた悩み・質問に、同氏が答えていきます。 ※本連載は書籍『子どもを伸ばす接し方』(KADOKAWA)より一部を抜粋・編集したものです。
「母に愛されて育った一人息子」が“周りから嫌われてしまった”ワケ ※画像はイメージです/PIXTA

様子を見るに…「親の“無視”が原因」と言えるワケ

3、高学年と低学年が一緒にドッジボールをしていました。龍龍はコートの中を行ったり来たりしながら、「かかってこい! 怖いもんか!」と叫びました。

 

これを聞いてみんなが龍龍にボールを投げました。龍龍は校舎の方に逃げながら、振り向いて「ガキ! かかってこい! ガキ! 怖いもんか!」と言いました。何人かの子は「ガキ」という言葉に腹を立て、追いかけていきました。

 

それでも「当ててみろよ! 怖いもんか!」と言って逃げ回るので、それを見た六年生の君君(ジュンジュン)は、この「ガキ」を少しこらしめようと思い、手にいくぶん力を込めて龍龍にボールを当てました。

 

龍龍はあまりの痛みに、君君を訴えようと事務室に向かいながら、まるで自分が「ヒーロー」であるかのように「かかってこい! 怖いもんか!」と言い続けました。

 

4、各学期の最初の授業では、まず教科書を配ります。でも改訂前の本が交じっていることがあるため、生徒がそれぞれ中身を確認して、古い本があれば交換します。

 

その日も、みんな教科書を開き、他の子と挿絵などを確認し合っていたのですが、龍龍だけは先生のそばを離れず、先生に自分の新しい雨傘を見せていました。先生に「龍龍がきれいな傘を持っているのは分かった。でも今は教科書を見る時間だから席に戻ってちょうだい。授業が終わったらまた見ようね」と言われても、今見てほしいと言って聞きません。

 

こうやって授業中いつも授業の内容とは無関係な話題を持ち出し、先生の注意を引こうとするので、他の生徒は龍龍を教室から追い出してほしいと先生に頼みました。龍龍は「何もしていないのに、どうしてみんないじめてくるの?」と不満そうです。

 

5、ある日、机に牛乳をこぼしてしまった龍龍は、先生に向かって「先生! 机を拭(ふ)いて」と言いました。

 

先生は「ドアの近くにふきんがあるから、自分で拭くといいよ」と答えました。でも龍龍は「先生に拭いてほしい」と譲りません。先生は仕方なく「自分でできることは自分でしなさい。拭き方を知らないなら教えてあげる。きっとできるはずだよ」と伝えました。

 

でも次の日になると、先生に泥のついた靴を洗わせようとしました。その次の日は、靴ひもを結ばせようとしました。

 

こうして龍龍は、確かに先生はやり方を教えてくれるだけで、代わりにやってくれることはないと理解しましたが、すると今度は毎日先生にくっついて、何でもかんでも自分のやることを見てもらおうとしました。他のクラスメイトは「あんまりだよ!」と言っています。

 

龍龍は一人っ子なので、何よりあの子が大切だというあなたの気持ちは分かります。しかし、ここ数日の様子を見た結果、恐らくあなたのお子さんは甘やかされ、無視された子どもであるとお伝えしなければなりません。

 

きっと納得できないでしょう。こんなに愛しているのに、自分があの子を無視しているわけがないと思うでしょう。でも、私たちは龍龍のような子を何人も見てきました。

 

この子たちの親は、自分に対する埋め合わせのために子どもを甘やかしているのです。親は自分の姿を子どもに投影しているだけなので、結果的に子どもの心の中にある本当の要求は無視されてしまいます。