オードリー・タンの母、李雅卿氏が創設した学校「種子学苑」。子どもたちは、何を学び、いつ休むかを自分で決める自主学習を行います。ある日、生徒の母親から「親子関係の変化」を報告されました。母親側にあった「問題」そしていい親子関係の築き方について同氏が解説します。 ※本連載は書籍『子どもを伸ばす接し方』(KADOKAWA)より一部を抜粋・編集したものです。種子学苑に集う子どもや親、先生から寄せられた質問に、同氏が一つ一つ答えていきます。
子の学業不振、母は「先生が悪い」と言うが…家庭にあった根本問題 ※画像はイメージです/PIXTA

緊張した夫婦仲…家庭の雰囲気が子どもの学業に影響していたが

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長いこと、子どもとの関係に悩んできました。学苑に来た当初は親の私も不安でいっぱいでしたが、子どもの宿題を見ることにしたら、親子の関係が改善したように感じています。

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最近になって、若蘭(ルオラン)は素晴らしい変化を遂げました。でもあなたのお話を聞いた時、私は本当に変わったのはお母さんだと感じました。あなたが成長したからこそ、若蘭は驚くほど変われたのです。「子は親の鏡」と言いますが、まさにその通りですね。

 

若蘭をこの学校に入れた時、あなたはこれで簡単に愛らしい我が子が「手に入る」と思っていました。でも家庭の雰囲気は変わらず、夫婦仲は緊張状態が続いていて、子どもは大人の争いの道具にされていました。両親は二人とも口では愛していると言うけれど、子どものために時間や手間をかけようとはしない。

 

若蘭が受けた愛情のほとんどは口先だけのもので、心からの愛ではありませんでした。

 

私の目には、若蘭が自分の力で家族の不和を修復するため、必死に両親を好きになろうとしているようにも見えました。これは十歳の子どもの心には、あまりに大きな負担でした。緊張状態が長く続いたことで、若蘭にとって安心できる場所は、家ではなく学校になっていました。その結果、人間関係や学業面に問題が出始めます。

 

でもあなたは、もう自分にできることは全部やったと思っていて、若蘭を助け、愛してくれる自分以外の存在を期待しました。結婚生活に不安を抱えていたことで、子どもの勉強がうまくいかないのは、学苑の先生の能力不足だと考えていました。

 

こうした心配、苦しみ、失望感によって、あなたは冷静さを失い、誰彼構わず非難するようになります。あなたは孤独の闇に飲まれ、そこから抜け出せずに苦しんでいました。

 

教師として同情はしても、私には何もできませんでした。なぜなら、若蘭の問題の根本は家庭にあったからです。学校は子どもに安全な環境を提供し、「親以外にも自分を愛してくれる大人がいる」と知ってもらう場所にすぎません。特に若蘭は口数が少なく大人っぽい性格なので、その心の殻を無理やり破ろうとすることはできません。

 

私は「若蘭のためにも、お母さんのためにも、心理カウンセラーに相談してみては?」と勧める一方で、思わずこう自問しました。「この母親は、いつになったら親としての責任を自覚してくれるのだろう?」