豪州にも日本と同じく「学区制度」は存在するが…
日本では公立の小中学校は学区が決まっていて、居住地域によって通学する学校が指定される。就学年齢に達する子どもがいる家庭に役所から送られる就学通知書には「入学指定校」が書かれている。
これは法律(学校教育法施行令)に基づくもので、自治体内に複数の公立小中学校がある場合、住民登録に基づいて就学先が指定されるのだ。他市に居住する生徒を受け入れることもあるが、いじめや虐待などの特別な事情がある場合に限定される。
オーストラリアにも学区はある。小中学校だけでなく高校も学区制。だが、日本ほど厳格ではない。
保護者は前年度に開かれる入学説明会で学校の様子を把握し、子どもにふさわしいと判断したら入学願書を学校に提出する。個別の相談もできる。入学の可否は学校のポリシーに基づいて決定されるが、学区の子どもはほぼ無条件で入学が可能だ。
学区の学校が子どもに合わないと思ったら学区外の学校を希望することもできる。学校は学区内の生徒を優先的に受け入れるが、定員に余裕があれば学区外からも受け入れている。学区外の学校を希望する場合は前年度にその旨を学校に伝え、ウエイティングリストに載せてもらう。
早い者勝ちの場合もあるが、受け入れの可否を最終的に判断するのは校長だ。障がいのある生徒や、虐待などの理由で特別な保護を必要とする生徒、他校を退学になった生徒、その学校に勤務する教職員の子どもなどは優先的に受け入れられることが多い。
なお、公立学校でも選抜を行っている学校や特別支援学校は学区を指定していない。
また、通常学校で実施している選抜プログラムも学区外の生徒を受け入れることがある。いずれにしてもどの学校に行くかを決めるのは生徒と保護者なのだ。
だが、学区が定められているので、入学時には住所が学区内にあることを証明する書類を提出しなければならない。希望する学校に行くために転居したり、一時的に住所を移したりする例がないわけではないが、日本ほどではない。
学力は個人の努力によって身につけるものという考え
そもそもオーストラリアでは、進学校やエリート校と言われる学校への入学に過熱する例は少なく、そうした学校を目指す生徒も限定されている。多くの生徒や保護者が、それぞれに合った学校で有意義な学校生活を送ることを大事に考えているように思える。
レベルの高い大学に行くためにレベルの高いハイスクールに行くという考えも日本ほど強くないようだ。大学に行くための学力は地元の学校でも十分につけられると考えられている。
学力は学校ではなく、個人の努力によって身につけるものだという考えが浸透しているのかもしれない。
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教育学博士
本柳 とみ子
公立中学校で26年間教鞭をとったあと、大学院で海外の教育について研究を始める。その後、慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら研究を続ける。2012年、早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)