慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら「海外教育」の研究を続ける、本柳とみ子氏の著書『日本人教師が見たオーストラリアの学校 コアラの国の教育レシピ』より一部を抜粋・再編集し、知られざるオーストラリアの教育について紹介していきます。
日本人教師が見た「オーストラリアの“リアルな”教育事情」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「豪州の初等・中等学校」7割は公立

初等・中等学校は公立(州立)と私立があり、公立が全体の7割を占める。公立学校はすべて州が設置しており、日本のような町立や村立といったものはない。

 

私立はカトリック系とそれ以外の独立系に大別される。後者には英国国教会などカトリック以外のキリスト教、イスラム教、ヒンズー教など宗教系の学校、モンテソリーやシュタイナーなど独自の教育理念に基づく学校、民族系の学校などがある。男女共学が多いが、私立では男女別学もある。

公立の学校のほとんどは「入試ナシ」で入学できる

学校はすべて全日制で、日本のような定時制はない。農業を専門とする高校がわずかにあるが、工業や商業などの専門教育に特化した学校もほとんどない。どの学校も総合的な教育を実施し、職業教育は総合教育の一環として行われている。

 

障がいのある子どものための特別支援学校(special school)もあるが、その数は400校ほどで、全体の5パーセントである。オーストラリアではインクルーシブ教育(障害のある子どもと、障害のない子どもがともに教育を受け、「共生社会」を実現する教育システム)が推進されているので、障がいのある生徒も通常学校に在籍することが多い。

 

初等学校と中等学校は分離されているが、一貫校もある。私立は圧倒的に一貫校が多い。

 

公立学校は、学力の高い生徒を選抜して受け入れる学校(セレクティブスクール)を除いて入学試験は行わない。だからみんな高校段階まで無試験で進学できる。入試というプレッシャーがないので生徒はのびのびしているように見える。一方、私立学校は入学選抜を行うところが多い。

豪州らしい教育を行う「遠隔教育学校」の実際

オーストラリアらしい学校の一つに遠隔教育学校(School of Distance Education)がある。「スクール・オブ・エアー(school of the Air)」などと呼ばれることもあり、学校に通うのが困難な子どもが情報通信技術を活用しながら教育を受けている。

 

遠隔地に住む子どもや移動労働者の子ども、在宅学習を希望する子ども、療養中の子どもなどが対象となる他、一時的に海外に滞在する子ども、妊娠中や子育て中の生徒、再教育を希望する成人なども受け入れている。

 

公立学校の中には先生が一人だけという学校がある。「ワン・ティーチャー・スクール(One teacher School)」と呼ばれており、ほとんどが遠隔地の学校だ。

 

国土が広大なオーストラリアには主要な町から遠く離れた遠隔地がたくさんある。日本で言うところの僻地だ。日本にも僻地は多いが、面積が日本の20倍もあるオーストラリアの遠隔地は半端ではない。車で何十キロ走っても家が一軒もないという経験は私にもある。

 

そうした遠隔地には小規模校が多く、教師の数も少ない。校長一人だけという学校もある。担任、教科指導、生活指導、事務的業務、保護者面談、行政との連絡などすべてを校長が担う。学校の施設も都市部に比べると簡素で、植民地時代の学校を彷彿とさせる。

 

通常の学校の他にも停学や謹慎中の生徒、不登校の生徒などを受け入れる学習センターなどが各州に設置されている。ドロップアウトする危険性(at risk)のある生徒を何とかケアしようとする姿勢を感じる。

学校教育は小学校に入学する前から

オーストラリアの小学校に行くと「あれっ、ずいぶん小さい子どもたちだな」と思うことがある。5歳児を対象とする就学準備教育の子どもたちだ。

 

就学準備教育は小学校教育への橋渡しをする教育で、遊びの要素を取り入れた活動をしながら基礎的な読み書きや計算能力を習得し、集団生活のルールも身につける。

 

小学生との交流もあり、授業やイベントにも参加する。日課も小学校とほぼ同じだが、朝のおやつがあったり、昼食時間が少し早かったりなど、異なるスケジュールが組まれることもある。

 

就学準備教育を義務教育としない州もあるが、就学する子どもの数は増えており、ほぼ初等教育の一環と認識されている。

 

名称は、キンダーガーテン、プレパラトリー(プレップ)、プレ・プライマリー、レセプション、トランジションと州ごとに異なるが、不都合はそれほどないように見える。