「中高年のひきこもり」と聞くと、仕事もしない怠け者…というイメージをもたれがちです。しかし、まったくそんなことはありません。誰の身にも起こりえる「ひきこもり」の実状を、臨床心理士の桝田智彦氏が解説します。 ※本連載は、書籍『中高年がひきこもる理由』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
日本人は「先進国で一番孤独」ひきこもりと背中合わせな中高年の実態 ※※画像はイメージです/PIXTA

増加する「おひとりさま」気をつけておきたいこと

さらにいえば、自分のもっとも身近なコミュニティである「家族」をつくらない人も増えています。近年増加している未婚や独り暮らしの家庭です。

 

現在の日本では、50歳時未婚率(50歳までに一度も結婚したことがない人の割合)が右肩上がりで急増しています。

 

内閣府が行った『令和元年版 少子化社会対策白書』によると、2015年に男性23.4%、女性14.1%であった50歳時未婚率は、2030年には男性28.0%、女性18.5%にまで上昇すると見込まれています。

 

さらに、国立社会保障・人口問題研究所の2018年の『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』によると、単身世帯数(独り暮らし)の一般世帯総数に占める割合も2015年の34.5%から2040年には39.3%へ増加するという推計がなされています。

 

注意していただきたいのですが、ここでは、50歳の時点で未婚であることや、独り暮らしであることが悪いと言うつもりはまったくありません。家族というもっとも身近なコミュニティを持たず、孤独になっている人が多いという事実に注目していただきたいと思います。

 

家族や会社以外で、人とのつながりやコミュニティを持たない。さらに、その家族自体も持たない選択をする──。そのような人たちの増加によって日本には、孤独な人が増えていると言えるでしょう。

 

そして、怖いのはそんな方たちが、失業や親の介護などの「ひきこもりにつながるきっかけ」に出合ってしまったときです。もともと孤独であれば、ちょっとしたきっかけでひきこもりになることも、十分に考えられます。

 

日本では「おひとりさま」が市民権を得ており、“孤独であること”がふつうになっているようにも思えます。そして、孤独を楽しめるのであれば、それは決して悪いことではないという雰囲気も世の中にあるように思います。それ自体はまったく間違いではなく、「自分の意思で孤独を選ぶこと」も、よい選択かもしれません。

 

しかし、何かが起きたときにはじめて、自分の孤独と向き合うと、その重みに耐えられず、ひきこもってしまう方も少なくないと思われます。

 

だからこそ「自分は大丈夫」と高をくくっている方にこそ、孤独とひきこもりの問題を「自分の事」としてとらえていただきたいと思うのです。

 

 

桝田 智彦

臨床心理士