2020年の非正規雇用は10年前の2.5倍となりました。雇用問題から派生する中高年のひきこもりという深刻な問題は、もはや他人事ではありません。ここではひきこもりの方たちの経済状態と、社会福祉体制の実態について、臨床心理士の桝田智彦氏が解説していきます。 ※本連載は、書籍『中高年がひきこもる理由』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
親の年金で暮らす「中高年のひきこもり」生活保護を受け取ろうにも…“あまりにつらい”実態 ※画像はイメージです/PIXTA

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「収入は父親の年金のみ。1日に食パン2枚」

ひきこもりの問題は貧困問題でもあります。内閣府の実態調査では、中高年のひきこもりの約30%が自分の暮らし向きを、上中下のうちの「下」と答えていました。

 

つまり、中高年のひきこもりの3人に1人は生活困窮者と言ってさしつかえないでしょう。

 

たとえば、2019年2月27日産経WESTによると、奈良県斑鳩(いかるが)町のアパートの一室で93歳の父親の遺体を放置したとして、同居していた60歳の息子が死体遺棄で逮捕されました。

 

NHKがこの事件をその後、詳しく取材しています。それによると、母親の介護のために仕事を辞めた息子は、母親が亡くなったときにはすでに50代半ば。仕事はみつからず、ひきこもり状態となって、父親とふたりで暮らすようになります。

 

収入は父親の年金のみ。1日に食パン2枚という生活を送っていて、父親が老衰で亡くなったときには手元に数千円の現金しかなく、葬式を出せずに遺体を放置していたというのです。

 

さらに、2019年4月21日の京都新聞のデジタル版に、京都市西京区の民家で50代男性と80代の女性とみられる遺体が見つかったという記事が載っていました。

 

その後の調べで、ふたりは母と息子で、89歳の母親は低体温症で亡くなり、そのあとを追って55歳の息子がガスを吸って自殺したらしいと推定されました。

 

息子の顔を見た人は近所にもほとんどいなく、ひきこもり状態だったと思われます。ふたりとも亡くなっているので、はっきりしたことはわかりませんが、母親の低体温症は低栄養状態によるものと推測されますし、その母親が亡くなったことで、息子は収入の道が途絶え、孤独と絶望のなかでみずからの命を絶ったと考えられそうです。