ひきこもりは、「命にかかわる孤独の問題」
今のところ、ひきこもりと無縁な生活を送ってきていれば、「閉じこもっていても、なんだかんだ生きているのだから問題ないのでは?」と思う方もいるかもしれません。
この問いに対しては、ひきこもり、そしてひきこもりによる「孤独」はときに、その人の命をも奪う重大な問題となりえることを申しあげたいと思います。とくに中高年のひきこもりでは、「孤独による死」が顕著に見受けられるのです。
ひきこもりを日本のどこかで起きている社会問題と曖昧に考えるのではなく、ひきこもりは「命にかかわる孤独の問題」であると、考えていただきたいと思います。そして、その意味でも、決してひきこもりは他人事ではないのです。
そうは言っても「孤独が死につながる」ということに、いまひとつ実感が持てない方も多いと思います。ここでは、孤独がいかに人を追いつめてしまうかをお話ししましょう。
人は意図せずに、ひきこもり状態となった場合、その多くが心理的に孤独な状態となります。この孤独によって、自分を粗末に扱うセルフネグレクト状態になります。
2018年に出版された『セルフ・ネグレクトの人への支援:ゴミ屋敷・サービス拒否・孤立事例への対応と予防』(岸恵美子:編/中央法規)によると、セルフネグレクト状態に陥ると、単純にやる気が起こらなくなるだけでなく、次のようなさまざまな状態が現れることがわかっています。
①不潔で悪臭のある身体状態(人並みな身繕いをしない)
②不衛生な住環境(ゴミを捨てない・害虫を駆除しない)
③生命を脅かす治療やケアの放置(疾患の治療や服薬を中断・拒否する)・奇異に見える生活状況(破れた服を着て外出する)
④不適当な金銭・財産管理(日常的な買い物や、公共料金・家賃の決済など、自分の財産管理が適切にできない状態)
⑤地域の中での孤立(近隣住民との関わりを拒否する、家にひきこもるなどの社会的孤立)
これら①~⑤を見てもわかるように、セルフネグレクトは、生きることを放棄している状態であり、別名「穏やかな自殺」とも言われています。
ひきこもりによる孤独、そして、その孤独によるセルフネグレクトは、命の問題にかかわってきます。実際、一般社団法人日本少額短期保険協会孤独死対策委員の2019年の『孤独死現状レポート』では、60歳未満の現役世代(20代〜50代)の孤独死は男女ともに死因の全体の約4割を占めているのです。
さらに、全国的な統計ではないものの、こんな報告もあります。2017年東京都区部の死亡総数7万8278人のなかの異常死は1万3118人。この異常死のなかで孤独死はなんと4777人で、36%にも及ぶというのです。
これらすべてがセルフネグレクト状態にあったとはもちろん言えませんが、ただ、孤独が人を追いつめ、死に導いていくことがおわかりいただけたかと思います。ひきこもりは、「命にかかわる孤独の問題」であると言えるのです。