慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら「海外教育」の研究を続ける、本柳とみ子氏の著書『日本人教師が見たオーストラリアの学校 コアラの国の教育レシピ』より一部を抜粋・再編集し、知られざるオーストラリアの教育について紹介していきます。
小学生で「留年」の可能性も…「オーストラリアの学校」日本との違い (※写真はイメージです/PIXTA)

「机の配置にどんな意図があるのですか」教師の回答は

日本の教室は机が前に向かって縦に数列並んでいることが多い。担任の指導が徹底しているのか、教室によっては前後左右等間隔で、ずれがほとんど見られないこともある。それほど几帳面でない私などは、あまりにも整然と並んでいる風景に感動してしまう。誰がどこに座るのかも決められており、その「指定席」は一定期間続くので次の席替えを楽しみにする生徒は多い。

 

オーストラリアは違う。

 

教室によって座席の配置はまちまちだ。同じ学校でも教室ごとに違う。コの字型やかぎ型もあれば、ロの字型で教師が中央に立つなどという例もある(逃げ場がない!)。グループに分かれる配置が多いような気がする。日本と同じような縦列形式ももちろんあるが、机がピシッと並んでいることは少ない。

 

誰がどこに座るかも決められていないことが多く、みんな好きなところに座っている。小学校では床に直に座ることが多い。特に、低学年は圧倒的に床方式だ。床にはカーペットが敷かれているので寝転んでも気にならない。

 

ある授業を参観したとき、机がコの字型とT字型の入り交じった複雑な配置になっていた。

 

どのような意図があるのか教師に聞いてみた。すると教師はこう言った。「特別な理由なんてないわ。今日はたまたまこうなっていたのよ」。すべてに意味があるということでもなさそうだ。

ひとクラスの人数は25人以下…少人数授業が基本

2020年12月、日本の文部科学省は公立小学校における1クラスの児童数の上限を2025年までに段階的に35人以下にすると発表した。

 

それまでは1年生のみ35人で、2年生以上は40人だった。中学校では現行の上限40人が維持される。文部科学省は小中すべて30人以下への引き下げを要求していたが、財務省では教育効果を疑問視する意見が強く、小学校のみの実施で折り合ったという。

 

しかし、何年も前からオーストラリアの学校を見てきた私には「やっと35人?」という印象が強い。

 

オーストラリアの学校は日本に比べると1クラスの生徒数が圧倒的に少ない。

 

30人を超えることはまずない。生徒数の下限は州ごとに定められているが、2017年の全国平均は小学校が24人、前期中等学校が23人。教師1人当たりの生徒数は小学校が15人、前期中等学校が12人で、平均すると13人だ。後期中等段階はさらに少ない。

 

ほとんどが選択授業なので、授業ごとに生徒数は異なる。科目によってはほんの数名ということもある。生徒が教室を埋め尽くす日本の学校とは大違いだ。

 

***********************************************

教育学博士
本柳 とみ子


公立中学校で26年間教鞭をとったあと、大学院で海外の教育について研究を始める。その後、慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら研究を続ける。2012年、早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)