慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら「海外教育」の研究を続ける、本柳とみ子氏の著書『日本人教師が見たオーストラリアの学校 コアラの国の教育レシピ』より一部を抜粋・再編集し、知られざるオーストラリアの教育について紹介していきます。
小学生で「留年」の可能性も…「オーストラリアの学校」日本との違い (※写真はイメージです/PIXTA)

日本にあって、オーストラリアの学校にないもの

日本の学校にあって、オーストラリアの学校にないものの一つに下駄箱がある。

 

日本のように靴を脱ぐという習慣がないオーストラリアでは校舎内も土足だ。だから生徒の出入り口がはっきりしない。入れるところならどこから入ってもよいという雰囲気だ。オーストラリアの学校に「昇降口」という概念はない。

 

屋内で靴を脱ぐのは、日本に古くからある生活習慣で、学校もそれに倣ってきた。

 

昇降口は、教職員や来客が出入りする玄関と区別し、生徒の出入り口として使われている。日本でも最近は土足で校内に入る学校が出てきた。

 

だが、その数はまだ少ない。校舎に入るときは昇降口で靴を履き替え、下駄箱に入れる。だから上履きが必要になる。さらに運動用の靴も必要。それもグランド用と体育館用。運動用の靴で通学することが許されていればよいが、そうでない場合は通学靴が別に必要だ。部活動専用の靴が必要な生徒はさらに靴の数が増える。

 

近年、日本人の生活様式は変化している。外国人も増えている。靴のまま家に入る家庭もないわけではない。また、学校生活と家庭生活は別だ。学校で靴を履き替えることの意義を考え直してもよい時期なのかもしれない。ちなみに、衛生面ではどちらがよいのだろう。

「生徒個人」に合わせたカリキュラムを実施

年齢の違う子どもが同じ教室で学んでいるのをよく目にする。学年編成は日本と同じく同年齢が基本だが、異年齢の編成も少なくない。そのようなクラスは「5・6年クラス」などと表示されている。異年齢クラスは特に小学校に多く見られる。

 

小学生は発達の個人差が大きく、同じ年齢だからと言って発達レベルも同じとは限らない。異年齢の子どもが一緒に学習する方が効果的だという研究結果もある。

 

遠隔地の学校は異年齢クラスが多い。遠隔地では生徒も教師も数が少なく、複合クラスにならざるを得ないことが多いのだろう。

 

小学校入学時点ですでに年齢が違うことも少なくない。義務教育の開始年齢は5、6歳だが、就学の準備が十分でないと思えば保護者は就学を遅らせることができる。

 

また、12年生まで年齢に応じて進級するが、留年もある。

 

留年というと日本ではマイナスのイメージがあるが、オーストラリアは違う。学習目標が達成できていないまま進級するより、もう一年しっかり学習して学力を確実に身につける方が大切だと考える人が多く、むしろプラスに捉えられている。

 

特定の教科だけもう一年繰り返すという場合もある。

 

誰もが同じペースで学習するわけではなく、学習効果の表れ方も生徒によってまちまちだ。年齢にとらわれることなく、学力をしっかり定着させることに重点を置くオーストラリアの教育には合理性があると思う。

 

習熟度別(ストリーミング)授業も盛んだ。学年を跨いで学習することも多く、3つの学年の生徒が同じ算数の授業を受けているのを見たことがある。子どもたちも保護者も年齢をさほど気にしていないように見える。

 

オーストラリアでは障がいのある子どもとそうでない子どもが同じ教室で学習するインクルーシブ教育が推進されているが、そうした学校では異年齢クラスは一般的だ。教師も複数配置される。表はそうした学校のクラス編成を示している(初等教育は当時は7年間だった)。

 

著者が調査した学校には同年齢クラスと異年齢クラスがあり、さらに、障がい児と健常児が混在する統合クラスが複数設定されている。統合クラスはすべて異年齢構成で、担当教師は3名配置される。通常クラスは生徒数に応じて1名から3名の教師が担当する。