脱サラして一念発起、突如「異国の地ルワンダ」でASIAN KITCHEN(アジアンキッチン)を開業した、シングルマザーの唐渡千紗氏。今夏、重版された書籍『ルワンダでタイ料理屋をひらく』(左右社)では、同氏が経験した「珍事の連続」が赤裸々に語られています。ルワンダのお客さんの、日本のお客さんと大きく異なる点は「注文の多さ」。笑ってしまう注文もあれば、ありがたいご指摘もあるようです。
日本人シングルマザー、ルワンダでタイ料理屋をひらく…「注文の多いお客さんたち」から学ぶ生き残りのヒント ルワンダの首都・キガリの風景(※画像はイメージです/PIXTA)

「コンゴ料理が食べたい」…メニューも見ずに?

また、とある日のこと。閉店間際に、インド人の男性がご来店。

 

「こんばんは。何にしましょう?」

 

「そうだねぇ……もう夜も遅いし、何かさっとできるものがいいねぇ」

 

男性はそう言いながら、メニューを全く見ようともせずに、「卵で何か作ってよ!」と言った。

 

卵、卵、卵……。私はしばし考えた。アジアンキッチンには、卵をメインにした料理はない。

 

「卵をメインにした料理は、あいにくなくって。お肉は召し上がりませんか? さっとできるものなら、チャーハンなどはいかがですか?」

 

「うーん、ボク、肉は食べないんだ。卵なら、なんでもいいからさ!」

 

そう言われても……卵を使った料理を必死に考える私とシェフを尻目に、結局そのインド人男性は、「ま、シンプルにゆで卵がいいかな」と言い、ゆで卵を3つ平らげて、ご機嫌に帰っていった。

 

またある日のこと、コンゴ人のお客さんがご来店。お隣のコンゴ民主共和国、旧称ザイールだ。

 

オーダーは、「コンゴ料理が食べたい」

 

……さすがにコンゴ料理はない。いかんせん「アジアンキッチン」なので、突然のコンゴ料理のオーダーは、少し難しいものがある。故郷の味を提供できなくて、申し訳ない。でも故郷の味なら確実に、私が作るより自分で作った方がいいと思う。

 

裕福そうな、恰幅のいいコンゴ人の男性は「そっかぁ、ないのかぁ」と少しがっかりしながら、ガパオライスをオーダーし直した。濃い目の味付けとがっつりしたチキンの量に満足したようで、笑顔で帰っていった。

 

お客さんがあまりメニューを見ないという傾向は、ルワンダの飲食店では、往々にしてメニューが当てにならない、という背景もあるかもしれない。何ページにも及ぶメニューを端からじっくり読み、よし決めた!とオーダーするも、「その料理は今日はありません」と平然と言われ、「じゃあ何ならあるの?」と聞くと、タイル屋の件よろしく、結局3択かい!とツッコミたくなるようなことが珍しくない。

 

※ タイル屋の件…アジアンキッチンオープンの際、店のタイルを探しに行った。たくさんの種類のなかからウキウキして選んだものの、「在庫切れ」のオンパレード。結局5択であった。

 

メニューに表示されている写真が、実物とは全く違うものだったりもする。とにかく、メニューは参考程度にしておいて、直接店員さんに聞いた方が、早くて確実なのだ。また国際的には、ビーガンやベジタリアンなど食の主義や宗教によって、禁忌とされる食材があることは常識だ。それもあって、しっかりとコミュニケーションすることは大切だ。