「コンゴ料理が食べたい」…メニューも見ずに?
また、とある日のこと。閉店間際に、インド人の男性がご来店。
「こんばんは。何にしましょう?」
「そうだねぇ……もう夜も遅いし、何かさっとできるものがいいねぇ」
男性はそう言いながら、メニューを全く見ようともせずに、「卵で何か作ってよ!」と言った。
卵、卵、卵……。私はしばし考えた。アジアンキッチンには、卵をメインにした料理はない。
「卵をメインにした料理は、あいにくなくって。お肉は召し上がりませんか? さっとできるものなら、チャーハンなどはいかがですか?」
「うーん、ボク、肉は食べないんだ。卵なら、なんでもいいからさ!」
そう言われても……卵を使った料理を必死に考える私とシェフを尻目に、結局そのインド人男性は、「ま、シンプルにゆで卵がいいかな」と言い、ゆで卵を3つ平らげて、ご機嫌に帰っていった。
またある日のこと、コンゴ人のお客さんがご来店。お隣のコンゴ民主共和国、旧称ザイールだ。
オーダーは、「コンゴ料理が食べたい」
……さすがにコンゴ料理はない。いかんせん「アジアンキッチン」なので、突然のコンゴ料理のオーダーは、少し難しいものがある。故郷の味を提供できなくて、申し訳ない。でも故郷の味なら確実に、私が作るより自分で作った方がいいと思う。
裕福そうな、恰幅のいいコンゴ人の男性は「そっかぁ、ないのかぁ」と少しがっかりしながら、ガパオライスをオーダーし直した。濃い目の味付けとがっつりしたチキンの量に満足したようで、笑顔で帰っていった。
お客さんがあまりメニューを見ないという傾向は、ルワンダの飲食店では、往々にしてメニューが当てにならない、という背景もあるかもしれない。何ページにも及ぶメニューを端からじっくり読み、よし決めた!とオーダーするも、「その料理は今日はありません」と平然と言われ、「じゃあ何ならあるの?」と聞くと、タイル屋の件※よろしく、結局3択かい!とツッコミたくなるようなことが珍しくない。
※ タイル屋の件…アジアンキッチンオープンの際、店のタイルを探しに行った。たくさんの種類のなかからウキウキして選んだものの、「在庫切れ」のオンパレード。結局5択であった。
メニューに表示されている写真が、実物とは全く違うものだったりもする。とにかく、メニューは参考程度にしておいて、直接店員さんに聞いた方が、早くて確実なのだ。また国際的には、ビーガンやベジタリアンなど食の主義や宗教によって、禁忌とされる食材があることは常識だ。それもあって、しっかりとコミュニケーションすることは大切だ。