脱サラして一念発起、突如「異国の地ルワンダ」でASIAN KITCHEN(アジアンキッチン)を開業した、シングルマザーの唐渡千紗氏。今夏、重版された書籍『ルワンダでタイ料理屋をひらく』(左右社)では、同氏が経験した「珍事の連続」が赤裸々に語られています。ルワンダのお客さんの、日本のお客さんと大きく異なる点は「注文の多さ」。笑ってしまう注文もあれば、ありがたいご指摘もあるようです。
日本人シングルマザー、ルワンダでタイ料理屋をひらく…「注文の多いお客さんたち」から学ぶ生き残りのヒント ルワンダの首都・キガリの風景(※画像はイメージです/PIXTA)

実は最もありがたい「生き残りのヒント」

注文の多いお客さんは、要望が細かく難易度が高いことも多々あったものの、その分フィードバックも細かくもらえることはありがたい。

 

フィードバックが必ずしもポジティブなものとは限らないが、それでも言ってもらえるだけ助かる。実際に言われたことだが、「ちょっと、このトムカースープ、ハーブが全然足りてないって! 香りが重要なんだから、この料理は。他にタイ料理屋ないんだから、もっと頑張ってよ!」などというコメントが、実は最もありがたかったりする。

 

ルワンダは、近隣国のケニアやタンザニアなどと比べても、圧倒的にマーケットが小さい。その中で、タイ料理屋というニッチなお店で生き残るには、いかにリピートしてもらえるか、それにかかっている。東京のように、とにかく多くの人に宣伝して、SNSで見て美味しそうだったから行ってみようという一見さんだけで回るような市場規模ではないのだ。

 

一度来てもらったお客さんに、とにかくリピートしてもらう。呼び込みや宣伝よりも、目の前のお客さんに満足してもらえるように集中する。

 

満足してもらえない場合、「次から気をつけてね~」と指摘の上許してくれることが多いが、時として、盛大に怒らせてしまうこともある。カンカンに怒っているお客さんと対峙するのは、勇気がいる。正直、逃げ出したくなる。

 

でも、お客さんが怒っている時は、本音を言ってくれている時でもある。その声を逃げずに聞く。そこでどう出るかが、見られているのだ。逆に一番怖いのは、何も言わずに来なくなるお客さんかもしれない。大きなものから小さなものまで、フィードバックを一つ一つ拾って、細かい改善を重ねる。

 

しばらくしてからまた来てくれたお客さんに、「え、前よりすごく良くなったじゃん! あの時はどうなることかと思ったけどさ(笑)」と言われて、ホッとするのと同時に、気合を入れ直す。

 

せっかく、数ある(と言っても限られるが)キガリのレストランで、「今日はアジアンキッチンに行こう」と来てくれたお客さんだ。全てのお客さんと、そのお客さんからのご注文とは、一期一会なのだ。

 

お客さんの出す注文の中に、そして食べ終わった時の表情の中に、きっと生き残りのヒントはある。

 

 

唐渡 千紗

ASIAN KITCHEN オーナー