オードリー・タンの母、李雅卿氏が創設した学校「種子学苑」。子どもたちは、何を学び、いつ休むかを自分で決める自主学習を行います。ある日、校内で1年生がクラスメイトをケガさせる事件が起こりました。動揺する母に、李氏が語ったこととは…。 ※本連載は書籍『子どもを伸ばす接し方』(KADOKAWA)より一部を抜粋・編集したものです。種子学苑に集う子どもや親、先生から寄せられた質問に、同氏が一つ一つ答えていきます。
「ひどい息子を育ててしまった」嘆く親にオードリー・タンの母が金言 ※画像はイメージです/PIXTA

「揚揚の立場になったら」オードリー・タンの母が心理を解説

揚揚は悩んだと思います。正直に話したら、これまで悪いことをした時のように、すごく怖い思いをするに違いない。だからわずかな可能性を胸に、この事件があなたに知らされないことを願ったのでしょう。揚揚の立場になって考えてみてください。あの夜を、どんな思いで乗り切ったのか。

 

親友を傷つけた。父や母からひどく𠮟られる。次の日学校に行けば、先生やクラスメイトの目もある。こんな状況は一年生の子どもにとって、あまりに負担が重すぎます。もし私なら、さらに子どもを叩くなんてできないと思います。

 

でもあなたは動揺を隠せない声で、「もし叩かなかったら、揚揚は非行に走るようになるでしょう?」と言いました。その瞬間、私は心の中に現れたありったけの神様に、揚揚とご両親をこの恐怖と不安から解放してほしいと願いました。

 

お母さん、そんな考えは捨ててください。子どもを叩いたって、悪いことをしなくなるわけではありません。

 

よく犯罪者の親がインタビューを受けて、頰を涙で濡ぬらしながら「小さい時、悪いことをしたらどうなるか、殴って教えてやったのに! 大人になってあんなことをするなんて……」と話すのをテレビで見るでしょう。一部の人は、こういう子どもの頃から「分からず屋」の人間は、生まれつきのワルなんだと言います。

 

子育てと学校作りに格闘した教育者が自らも悩んだ数々の質問に答えます!

でも、本当にそんな単純なものでしょうか?

 

私は犯罪の研究者ではありません。でも今まで出会った子どもたちの中に「生まれつきのワル」なんて一人もいませんでした。ただ不適切なしつけによって、強い失望や怒りを抱え、自分自身を見捨てた子どもがいただけです。

 

この子たちは、接する大人の方が心を入れ替えて、子どものありのままの姿を受け入れ、長所を見つけ、肯定し、自信をつける手助けをすれば、必ず心を開いてくれました。

 

それに、子どもが悪さをしない理由が、「何が悪いのかを理解したから」ではなく、「罰が怖いから」である場合、もう罰を受けないと分かったとたんに、本当に何の恐れもなく悪事に手を染める可能性だってあります。