買い手と売り手の「情報格差是正」が基本的な目的
デューディリジェンスとは、M&Aにおいて重要性の高い手続です。
まず、デューディリジェンスは、買い手側が弁護士・公認会計士・税理士等の専門家に依頼するなどして、売り手側からの提出資料や聞き取りを通じてM&A対象企業(売り手企業と一致する場合もあれば、その子会社等の場合もあります)の実態を調査する手続です。
このデューディリジェンスの基本的な目的は、売り手側が把握している対象企業に対する情報量の多さと、買い手側が把握している情報量の少なさという「情報格差を是正する」点にあります。売り手側は、自社又は子会社の情報ですので、詳細まで把握しているのが当然です。
これに対して、買い手側は、外側から対象会社にアプローチするのですから、公開情報に加え、FA又は仲介に入った銀行や専門会社から得られた概要情報以外には、ほとんど情報を持っていないのが通常です。そのため、対象会社に対する情報量としては、売り手側が圧倒的に多くを持っているという著しい情報格差があります。
かかる情報格差を埋める方法として、買い手側はデューディリジェンスを徹底して実施することになります。対象企業の抱える問題点や懸念事項を抽出することにより、実態の把握に努めることになります。もちろん、デューディリジェンスを実施しても、全てが明らかになる訳ではありませんので、売り手側が保有する情報の方が多い状態が継続するかもしれませんが、効果的なデューディリジェンスを行うことができれば、その格差は相当程度是正することができます。
【図表 買い手と売り手側の情報格差】
「一歩踏み込んだデューディリジェンス」とは?
こうした情報格差の是正という基本的な目的に加え、デューディリジェンスには、応用的な目的を持ったものがあります。それは、「一歩踏み込んだデューディリジェンス」といわれるものです。
これは、売り手企業においては自身の企業である対象企業について、通常は詳細な部分まで把握しているものと考えられるとしても、対象企業の全てを把握している訳ではないという点を突くものです。すなわち、細かい事項まで分かっているとしても、それは現状の把握という面に留まり、専門的知見からメスを入れれば改善可能か否かという面までの詰めた検討はしていない場合がありますので、この点をデューディリジェンスで明らかにするということです。
例えば、売り手側は、対象会社が賃借している各店舗の家賃を把握していますが、賃料減額請求権を行使すればどの程度の減額が可能なのかという専門的知見からのメスは入れていないことが多いです。同様のケースは、現業部門のアウトソーシングへの移行、賃金体系の見直し等の人件費抑制の視点など多くの場面で考えられます。
家賃や人件費といった固定経費を削減・抑制できるか否かは非常に重要ですので、デューディリジェンスを担当する弁護士・公認会計士・税理士等の専門家には、こうした売り手側も把握していない対象会社の隠れた強みである「ポケット」を徹底的に探すように要望されてもいいのではないでしょうか。言い方を変えれば、このような一歩踏み込んだデューディリジェンスこそが、担当する弁護士・公認会計士・税理士等の専門家の腕の見せ所であると言えます。