生活困窮者の相談に乗り、生活保護の申請を手助け、住まいを紹介するNPO法人・生活支援機構ALL。「困っている人は誰でも、門を叩いてほしい」と代表理事の坂本慎治氏は語るが――。 ※本連載では書籍『大阪に来たらええやん!西成のNPO法人代表が語る生活困窮者のリアル』(信長出版)より一部を抜粋・編集し、日本の悲惨な実態に迫っていく。
「警察署から呼ばれている。」家賃滞納男性が土下座…4人家族の壮絶 (※画像はイメージです/PIXTA)

「それが本題じゃないんです」…無念すぎる結末に

これではらちが明かない。私が「書類はもういいでしょう」と警察の方に提案すると、彼が警察に呼ばれたのはそれが本題ではないといいます。生まれたばかりの赤ちゃんの問題です。

 

彼は「病院には分割でもしっかり払う」と意思を告げました。しかし問題は「お金」だけではありません。出生届はどうするのか。

 

そもそも第1子も出生届を出していない。奥さんとの籍も入れていない。奥さんの国籍もはっきりしない。奥さんは不法滞在ではないのか……。

 

結局この話も、問い詰めるうちに彼がまた暴れ出したので、後日改めてという話になりました。

 

しかし彼と奥さんはその後、忽然と姿を消してしまいました。彼も奥さんも、いい年の大人ですから、どうにかして生きていくことはできるでしょう。心配なのは子どもです。学校にもいけません。その後、どのような生活を送っているのか……。

 

今でも気になります。最善を尽くしたとはいえ、最後まで相談に乗りきって、救うことができなかったのは事実。私の心にはいつまでも残り続けるエピソードとなっています。

 

 

坂本 慎治
NPO法人生活支援機構ALL 代表理事
大阪居住支援ネットワーク協議会 代表理事
株式会社ロキ 代表取締役

 

※本連載で紹介している事例はすべて、個人が特定されないよう変更されており、名前は仮名となっています。