都営住宅、「桐ヶ丘団地」。相次ぐ建替えにより、地域コミュニティは度重なる苦難に見舞われました。高度経済成長期の遺産である「大規模団地」の高齢化と建替えについて、文化人類学者の朴承賢氏が解説します。 ※本連載は、書籍『老いゆく団地』(森話社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「この年で引っ越したくないよ」相次ぐ建替えで住民困窮…都営団地の実態 建替え予定地区の改善事業後の様子(撮影年月:2012年11月 撮影者:朴承賢〔パク・スンヒョン〕)

寂しい…桐ヶ丘団地に「空き部屋が増えている」実態

改善事業で、世帯人数とは関係なく2DKが3DKへと増築されたこと、そして建替えで再び世帯人数に応じて入居可能な間取りが決められることは、団地内で同時に行われた工事の矛盾した方針でもある。建増しされた号棟のある住民は、改善事業で「南向きの部屋が3つになったので、エレベーターだけ設置されれば引っ越したくない」と語った。

 

住民たちだけではなく、建設事務所の桐ヶ丘団地担当者も、改善事業や増築が惜しいと述べた。しかし、これらは本来、1996年の改善事業計画でも15年間だけ使う予定で行われた工事であり、建替えが延びていることで、最初の予定より長く使われることになった。

 

都営住宅は、もともと他の住宅の建替えや災害被害者の入居のため、何軒かの空き家を置いておく。それに、建替えが予定されている区域では募集がないため、建替え予定のN地区には空き部屋が多い。

 

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空き家がいっぱい。だからおかしいのよ。何年か先に私たちが移動するんでしょう。それが5年先か10年先かわからないのに、だから空き家をそのまま置いておくんだって。80部屋があるけど、20部屋が空いている。何で入れないのか、もったいない。やり方がおかしい。自治会にとってもよくないし、雰囲気も寂しい。

(2012年11月、N地区のある住民へのインタビュー)

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しかもエレベーターが必要な住民が、新しいところへ少しずつ引っ越すため、建替え予定の区域に空き家がさらに増えている。

 

この問題に対して、東京都都市整備局の担当者は、建替え直前に入居した人が、すぐまた引っ越しすることにならないよう、一般の手順では、建替えの数年前からは募集を停止し、建替えが終わった新しい部屋に新しい入居者を募集すると述べた。

 

 

朴 承賢(パク・スンヒョン)

啓明大学 国際地域学部 日本学専攻 助教授