本記事は全国に31店舗を展開する美容室【CIEL】の創設者で、OXY株式会社代表取締役である山下拓馬氏の書籍『よそ者経営』より、一部抜粋・編集し、株の知識ゼロで入社した証券会社での経験を紹介します。

「成売ってどうやるん?」同期に見捨てられた著者は…

ある日、急に部署内がざわつきだした。「古河電池!」と誰かが叫んだ。「すごい、急騰だ。」その声に押されて僕たち新人3人もこの株に参戦することにした。

 

買値が上昇する中、ようやく買いが成立した。と思った途端、株価は一気に急降下していく。今までにない経験に、3人とも凍りつく。あわてて指値をつけて売ろうとするが、あまりの急落に追いつくことができず、売れない。

 

3人のあわてふためく様子を後ろから見ていた部署の責任者、センター長が、一番後ろの席の橋口に近寄り「投げ売った方がいいかもしれないねぇ」と小声でささやいた。

 

「あ、ハイ」と橋口は返事をしていたが、僕は何をすればいいのかわからない。

 

 

「何? 何? どうしたらいいん?」

 

目立たぬように後ろを振り向き、小さな声で橋口にたずねたが、彼はそれどころではなかった。画面を凝視したまま、彼も小声で叫ぶ。

 

「成売!」

「……成売って?」

「……今忙しい!」

 

センター長に「成売ってどうやるんですか」と聞いて「それは成り行き売り注文のことで、売値を指定せずに、そのときの買い注文の中の一番高い値段で売ってしまうことだよ」と教えてもらえればいいのだろうが、株のプロとして入社したからそれはできない。僕は、今度は前の席の饗庭の背中をボールペンでつついてみる。

 

「なあ、饗庭、成売ってどうやるん?」

 

同様に僕をかまう暇のない彼は、無言のまま背中をよじって僕のボールペンを払い、振り向きもしない。同期2人に見捨てられ、僕はただただ降下する株価を追いかけた。何とか売値を下にずらしていくが、全く追いつけない。

ノリと雰囲気で売買して何とか乗り切る日々

「これ、どこまで落ちるんだ……。あー、ダメだ、どうしよう……」

 

半ばあきらめて画面をしばらく眺めていると、今度は急に株価が反発して上がり始めた。その後もみるみる株価は上昇し、何と僕が指した値段まで戻ってきた。

 

結局、成売した同期2人は底値で株を売ることになり、僕はセンター長に褒められた。

 

「お前、ようここまで戻るってわかったなあ」

「あ、はい、この局面ならここまでは戻るかな、と思ったので」と、僕はすまして答えた。

 

時にはハッタリも必要だ。同期2人は呆れていたが、日頃合コンのセッティングなどで感謝されているからか、僕のハッタリにも目くじらをたてず見逃してくれた。

 

その後も特に勉強もせず、ノリと雰囲気で売買して9時から15時までを乗り切り、全精力を定時以降の飲み会と週末の合コンのために使っていた。思い描いたとおりの生活だった。

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『“発達障害かもしれない人”とともに働くこと』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

新・健康夜咄

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髙山 哲夫

幻冬舎メディアコンサルティング

最新医療機器より大切なものは、患者さんを想う心――。著者のところには、がん、糖尿病、嚥下困難、胃ろう、認知症、独居うつ、褥瘡など、様々な病気をもつ高齢の患者さんがやってくる。地域の高齢な患者さんの声に真摯に耳を…

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