産後の夫婦関係はその先何十年を左右する。日本では「産後うつ」になる女性が30%を超えるが、パートナーのサポートが得られなかったことも大きな原因だろう。東野産婦人科院長の東野純彦氏が、夫婦で仲良く過ごすための男性からの働きかけのヒントを伝授する。

一家団欒のときに赤ちゃんが泣きだした!

【洋と留美の事例】

 

生後8カ月の赤ちゃんがいる大隈さん夫妻。一家そろって晩ごはんを食べているときに、赤ちゃんが離乳食をこぼしてしまいました。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

妻の瑠美さんは真っ先にキッチンからタオルを持ってきて、べちゃべちゃになったテーブルと床を拭いています。同時に、お皿の落ちる音でびっくりして泣いてしまった赤ちゃんをなだめるのに必死です。

 

一方、夫の洋さんは一歩遅れて事態を飲み込みます。

 

問題なのは次の一言でした。

 

「あーあ。手伝おうか?」

 

それを受けた瑠美さんの顔はみるみる鬼の形相になります。

 

「は? 手伝うって何を? なんでそんな他人事なの?」

「手伝おうか?」は他人事?

洋さんからすれば「妻が大変そうだから」という思いで声をかけたのに、瑠美さんは主体性のない「手伝おうか」の言葉にうんざりしてしまったのです。

 

ここでの正解は、気づいた瞬間に拭くものを持ってきて、できるだけ早く元どおりの状態にするよう努めること。「手伝おうか」と相手に選択権を与えている時点で、他人事のように思われていると認識されても仕方がありません。そんなつもりじゃないにせよ、つい出てしまう「手伝おうか?」には十分に注意しましょう

「もう少し落ち着いて食べたらいいのに」

【正平と千尋の事例】

 

2歳になる双子を育てている林さん夫婦。食事中、夫の正平さんがふざけたように、妻の千尋さんにこう言います。

 

「なんかお前、食べるの早くなったよな。もう少し落ち着いて食べたらいいのに」

 

千尋さんは静かに箸を置くと、ぽろぽろと涙を流し始めました。

 

「私だって本当はもっとゆっくり味わいたい。でも、この子たちが生まれてからずっと時間がないなかで、急いで食べることが当たり前になっちゃったんだよ」

 

思わぬ妻のリアクションに、正平さんは戸惑ってしまいました。まさか、自分の妻がそんなふうに考えていたとは思いもしなかったのです。

子育て中の妻の変化には理由がある

産後の妻は時間のないなかで、家のことに加え自分の身の回りのことをなんとか整えようと必死なのです。食事はおろか、トイレすらゆっくりいけないことはよくあります。ましてや生まれて間もない赤ちゃんは夜泣きをする子がほとんどで、1時間以上ぐっすり寝てくれるだけで御の字という状況です。その間に一気に食事をしたり部屋の掃除をしたり……。そのため妻はおのずと早食いの癖がついてしまうのです。

 

それなのに「もう少しゆっくり食べたら」なんて言葉をかけられたら「なんてデリカシーのない夫なの!」と思われるのも無理はありません。赤ちゃんが泣くので、食事を中断して抱き上げる妻に対し、「ちょっとくらい泣かせても平気だよ、ごはんゆっくり食べたら?」なんて言うのもご法度です。

 

「手伝おうか?」がNGであるのと同様に、これらの言動も「結局夫は、育児=母親がやることだと思っている」ととらえかねません。そうではなく「僕が抱っこしているから、その間にゆっくり食べると良いよ」と声をかけてあげれば、夫も育児に参加してくれているという連帯感が生まれます。

 

 

東野 純彦

東野産婦人科院長

 

 

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本連載は、東野産婦人科院長の東野純彦氏の著書『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎MC)から一部を抜粋した原稿です。

知っておくべき産後の妻のこと

知っておくべき産後の妻のこと

東野 純彦

幻冬舎MC

知らなかったではすまされない「産後クライシス」―― 産後の妻の変化、訪れる最大の離婚危機…… カギを握るのは夫の行動!? 女性の生涯に寄り添ってきた産婦人科医が伝授する夫婦円満の秘訣とは

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