「相続時精算課税制度」とは、「生前贈与をするときは2500万円まで贈与税を非課税にしますが、贈与した人が亡くなった時には、その人の遺産だけでなく、過去に生前贈与した財産も一緒に、相続税を課税しますよ」という制度です。今回は、この相続時精算課税制度のメリット・デメリットを、相続を専門とする円満相続税理士法人の桑田悠子税理士がわかりやすく解説していきます。

デメリット2:「小規模宅地等の特例」が使えなくなる

デメリットの2つ目は「小規模宅地等の特例という土地の減額特例を使えなくなる」ことです。

 

小規模宅地等の特例は、一定の要件を満たすと、土地の評価額を80%OFFや50%OFFにすることができる制度です。

 

小規模宅地等の特例を使わないと相続税が発生するけれど、この特例を使うことで相続税が0円になる家族もたくさんいるような、インパクトのある特例です。

 

なぜ、相続時精算課税制度で贈与する土地について、小規模宅地等の特例の適用をすることができないかというと、小規模宅地等の特例は「相続」か「遺贈(遺言で財産を相続すること)」でもらった土地についてのみ適用できると決められているためです。

 

相続時精算課税制度では、贈与でもらった財産を、相続税の計算に含めますが、それはあくまでも、税金の計算上のお話であり、実際に「贈与」でもらったという事実は変化しません。

 

そのため、不動産を相続時精算課税制度で贈与しようと考えている場合には、贈与で移すことのメリット(賃貸物件の収入を子どもや孫に移すことができる等)と、デメリット(小規模宅地等の特例を適用できない等)を比較しないと、想定外の損失を被る可能性があります。

 

また、建物だけ贈与をし、土地は贈与せず相続で引き継ぐ場合には、小規模宅地等の特例を使える場合もあります。ケースバイケースです。

デメリット3:不動産の登録免許税や取得税が高額

次のデメリットは「不動産をあげる場合、登録免許税や不動産取得税が、想像以上に高額となる」ことです。

 

この2種類の税金は、あまり馴染みのないものかと思いますが、不動産の所有者が移る時などのその不動産の「固定資産税評価額」に対して、必ずかかるものです。

 

登録免許税は、その名の通り「登録」つまり法務局へ「登記」をするために国に支払う税金です。この登記をしないと、他人に対して「この不動産は僕のものだ!」と主張することができないので、必ず行います。

 

ちなみに、司法書士へ登記業務を依頼する場合は、登記業務の司法書士報酬を支払う際に、併せて登録免許税の金額も支払い、司法書士が代わりに国に支払ってくれます。

 

また、不動産取得税は、「不動産」を「取得」する際にかかる税金です。この税金は不動産の取得に対してかかる税金で、不動産を取得すると、都道府県から納付書が送られて来ますので、そちらで支払う流れとなります。

 

これら2種類の税金の合計額が、贈与だと相続の「約10倍」もかかってしまうのです。

 

[図表]登録免許税と不動産取得税の相続と贈与の場合の比較

 

具体的な税率を見ていきましょう。

 

相続の場合は、登録免許税は0.4%で、不動産取得税は非課税です。一方、贈与の場合は、登録免許税は2%で、不動産取得税は1.5%~4%です。合計すると3.5%~6%にもなります。

 

ちなみに、不動産取得税は減額措置で1.5%より低くなるケースもありますが、今回はその減額については割愛します。また、1.5%という税率は2024年3月31日までの期間限定の税率です。延長となる可能性が高いと考えていますが、あくまでも期間限定の税率でありこの期間が終了すると、本来の3%という税率に戻り、さらに税額の差が開きます。

 

この税率は、固定資産税評価額に掛けることになるので、たとえば固定資産税評価額が1億円の不動産で、不動産取得税が6%の不動産を贈与する場合、相続より贈与のほうが560万円も税金が高くなります。

 

相続:1億円×0.4%=40万円
贈与:1億円×6%=600万円
→600万円-40万円=560万円

 

不動産取得税が3.5%でも310万円も違いますね。

 

相続:1億円×0.4%=40万円
贈与:1億円×3.5%=350万円
→350万円-40万円=310万円

 

この2種類の税金のことを考えないアドバイスは、とても危険です。

 

相続税率よりも贈与税率が低い範囲での贈与でも、この2種類の税金で結果が逆転するケースを多く見てきました。この論点はぜひ漏らさずに、生前贈与の検討をしましょう。

 

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