三菱が「秘匿情報」にした結果発生した痛ましい事故
ハインリッヒの法則について紹介しておきたいと思います。
ハインリッヒはアメリカの損害保険会社の技術調査部の副部長で、ある工場で発生した労働災害5000件余を統計学的に調べて、『Industrial Accident Prevention: A Scientific Approach』という本を1931年に出版しました。
その内容は[図表1]に示すように、一つの「重症」以上の災害の背後には29の「軽症」を伴う災害があり、その背景には300のヒヤリとしたり、はっとしたりする「ヒヤリハット」(危うく大災害になる障害のない体験)が存在し、さらにその背景には数千件の不安定な状態や行動があるというものです。
この結果が活用されて、現在では小さな事故やトラブルに気づいた段階で、それが原因で大きな事故や災害にならないようにこまめに対策を取っていくことや、その活動を続けることが安全衛生管理の基本的な考え方になっています。この考え方を自動車の問題にあてはめれば、設計や製造における問題に気がついたらすぐに対処していくことで、大きな事故につながることを防ぐことになります。
リコールはこのように「ヒヤリハット」することや、「軽症」に気がついて「重症」になることを防ぐ働きをしていると捉えることができます。
リコールをせずに隠し続けた結果、大事故に至った例が三菱トラックの事故です。
◆三菱トラック事故~リコール隠し
2002年1月、横浜市瀬谷区で、三菱自動車工業のトレーラー型トラックのタイヤ(直径1 m、質量140kg)が外れて、約50m離れた歩道を歩いていた母子3人を直撃し、母親が死亡しました。その原因は[図表2]に示すように、タイヤと車軸をつなぐハブの強度不足により、ハブの付け根にき裂が発生して破断したためです。
実は、以前からハブの不具合は起こっていました。1994年にもタイヤ脱落事故が起こっていました。ところが、三菱自動車工業のなかでは、情報を運輸省に見せられるクレーム情報「P」と運輸省に見せられない秘匿情報「H」に分けて管理しており、7割を秘匿情報にしていました。