今や「価格の安さ」と「利回りの高さ」が日本の魅力に
中島:香港の方は、日本の不動産投資において、どういったところに魅力を感じているのでしょうか?
チャン:5、6年くらい前までは、中国や香港の人達で興味を持つ人はほとんどいませんでした。しかし、2011年の震災以降、より日本に馴染みのある台湾人が、日本の不動産に投資しているというニュースがよく聞かれるようになり、2012年以降に、円安の影響を受けて、香港内で日本の不動産投資への興味が高まってきました。
ちょうどその頃、新聞記事やニュースで、日本の不動産が割安で、物件の単価も低めで投資しやすく、また管理や契約手続きなども複雑ではないと紹介されるようになり、その反響を受けて日本の不動産投資へ興味を持つ人が一気に増えたのです。
一方で、香港の不動産は2009年から2012年にかけて2倍近くに高騰し、香港内での不動産投資が難しくなってきていました。そんな中で、日本では東京でも50万香港ドル程度から購入できるワンルームマンションがあるとして、日本の不動産投資が注目されました。
中島:香港の不動産が急騰する一方で、円安の影響を受けて日本の割安感が増し、魅力が高まった訳ですね。安さだけが、魅力なんでしょうか?
チャン:価格の安さに加えて、利回りも高かったことが魅力のひとつです。香港での賃貸物件の利回りは3%程度であるのに対し、日本では5%程度、中古物件であれば8%程度と比較的高い水準のものが当時は紹介されていましたので。
中島:投資対象としては、どの地域に人気がありますか?
チャン:東京への投資が多いです。それ以外では、福岡、大阪で物件を探す方もいらっしゃいますが、実際の投資はそれほど多くなく、東京に集中しています。
中島:不動産投資といっても、住宅、ホテル、商業用ビルやオフィスなど色々とありますが、投資する物件のタイプとしては、どのようなものが人気ですか?
日本の不動産に関心を持っているのは香港の「中間層」
チャン:2006年頃までは、海外からの日本の不動産投資家というと、不動産ファンドがほとんどでした。その当時は、商業ビルや大型物件への投資が中心でした。昨今の不動産投資は個人投資家が中心ですので、住宅用の物件がほとんどです。
日本では非居住者に対し融資をする銀行がほとんどないため、投資金額が少なくても購入できる物件を探す方が多いためです。まれに、中国人で日本に住む親戚・知人が居る場合、その人たちを通じて融資を受けて、もう少し大きな物件を購入するケースも見られます。
中島:なるほど、融資が受けられないので、投資対象が限られているんですね。台湾人からの投資はどうでしょう。香港の方は新築物件を好む傾向がある一方で、台湾の方は高い利回りを求めて、中古物件への投資を好むと聞いたことがあるのですが。
チャン:台湾人の場合は少し事情が異なります。台湾人は、日本のことを熟知し、日本語を話せる人も多く、投資に関する法令も二国間で似ていることから、日本不動産への心理的なハードルが低いようです。また、台湾の大手銀行は古くから日本に支店があり、台湾人向けに融資も行っていることから、物件の広さ、築年数、用途など様々な面で、投資対象の幅が広いです。
中島:歴史的背景の差が、台湾人と香港人の投資スタイルの違いに表れているんですね。
チャン:それに加えて、今、香港から日本に不動産投資をしている人は、富裕層ではなく、主に中間層です。5~10億円以上の資産を持つ香港の富裕層は、主に英語圏の不動産投資に興味があります。
富裕層で日本の不動産投資を考えている人は、すでに他の英語圏で不動産を所有していて、さらに日本の不動産に投資することで、分散投資を図ろうとしている人です。英語圏の物件は価格が高い傾向にあり、中間層ではなかなか手が出せません。中間層にとって、少ない投資額で物件を購入でき、比較的高い利回りが得られる日本の不動産投資は、非常に魅力的なのです。
中島:ニュースでは、「日本で中国人が50億円の物件を購入」といった話しが流れていたりしますが、そのような規模の不動産投資は稀なケースなのですね。
チャン:中国本土からの投資は、香港からの投資と少し目的が違うと思います。中国本土の富裕層は、中国国外へ資産を分散したいと考えている人が多く、その手段のひとつとして日本の不動産に投資をするケースが多いと思います。利回り追求を目的とした投資というよりは、アセットロケーションの分散先として安全な国である日本を選んでいると言えるでしょう。