新興国市場モニター:新興国の財政政策分析

投資のプロフェッショナルである機関投資家からも評判のピクテ投信投資顧問株式会社マーケット情報。専門家が明快に分析・解説します。※本連載は、ピクテ投信投資顧問株式会社が提供するマーケット情報を転載したものです。

 

先回の「新興国市場モニター」では、新興国の新型コロナウイルス対策のうち金融政策を取り上げましたが、今回は、財政政策について、どの国が最も大きな調整を強いられ、どの国のリスクが相対的に高いかを分析します。課題が山積するブラジル、トルコ、南アフリカの3ヵ国は特に脆弱だと思われます。

苦戦する経常赤字国

先回取り上げたリスク回避の例では、資金調達に際して海外投資家への依存度が最も高い国の通貨が最も大きな打撃を受けたことを確認しました。こうした経常赤字国の通貨は、年初来で13%程度下落しています。以下では、インド、インドネシア、マレーシア、ブラジル、メキシコ、コロンビア、トルコ、南アフリカ各国の詳細な分析を試みます。

状況は想定したほど悪くない

上記8ヵ国の財政刺激策の総額は、ブラジルがGDP比8.5%、コロンビアが同7.1%と一見、巨額に見えますが、信用保証付き融資の大半は、企業が危機を乗り越えるためのつなぎ融資であり、返済が「義務」付けられているため、必ずしも公的債務を増加させるわけではありません。「義務」に注意が必要なのは、融資を受けた企業が倒産しないこと、或いは、融資を行った政府が債務免除(債権放棄)を行わないことが前提となっているからです。

 

2020年5月時点 出所:ピクテ・アセット・マネジメント
[図表1]経常赤字を抱える主要8ヵ国の財政刺激策 2020年5月時点
出所:ピクテ・アセット・マネジメント

リスクが最も高いのはブラジル

公的債務に影響を及ぼす財政支出のみに焦点を当てて考えると、ブラジル以外の国は、資金調達の必要性と調達能力の均衡が、概ね、取れているように思われます。

 

もっとも、公的債務は検討すべき指標の一つに過ぎません。ピクテが独自開発した公的債務の持続性(スコアリング・)モデルに6つのファクターを投入し、各国の財政刺激策と対比して分析した結果を示したのが図表2です。

 

図表2が示しているのは、財政刺激策の規模が相対的に大きいのは債務の持続性が相対的に高い国だということです。換言すると、ソブリン・リスクが高い国ほど財政刺激策の規模が小さいということになります。(公的債務が高水準に積み上がり、財政刺激策の規模が小さい)こうした国のグループには、南アフリカやインドが含まれます。一方、この点でも他国と異なるのがブラジルで、新興国ではタイに次いで2番目に規模の大きい予算(3,800億レアル)が議会を通過したところです。

 

時点:2020年5月、縦軸:財政支出(%、2020年潜在GDP比)、横軸:公的債務の持続性(Zスコア)  出所:ピクテ・アセット・マネジメント
[図表2]新興国の財政支出と公的債務の持続性スコア 時点:2020年5月、縦軸:財政支出(%、2020年潜在GDP比)、横軸:公的債務の持続性(Zスコア)
出所:ピクテ・アセット・マネジメント

 

ブラジルを除くと、新興国の財政悪化の度合いは、先進国よりも遥かに小さいはずです。GDP比で見た直接的な財政刺激は、先進国の4.2%に対し、新興国は1.6%に留まるからです。また、新興国は民間セクター向けに保証付き融資を供与することについて、先進国よりも遥かに慎重な姿勢を維持してきました。

森の中の分かれ道:どちらの道を進むべきか?

では、過度に慎重な対応をとることは可能でしょうか? 明らかなリスクは、財政政策は規模が小さ過ぎると効果がなく、経済全体のコストを増す結果になるということです。経済活動の停止は税収の減少を通じて歳入の減少をもたらすため、財政が悪化する結果となるからです。南アフリカを例に取ると、2020年通年の名目GDPが3.7%のマイナス成長となった場合、歳入は5%の減少が見込まれます。

 

経常赤字を抱える新興国の一部は、今後数ヵ月、細心の注意を払って入り組んだ道を歩んでいかなければなりません。過度の財政刺激を行って債務を持続不可能な水準に膨らませ、通貨の暴落と経済の崩壊を招くリスクを冒すのか、それとも、規模の小さ過ぎる財政刺激を行って、景気の低迷が歳入不足と通貨の暴落を招く状況に陥るのかのどちらかだからです。

安定した基盤の重要性

考慮すべき重要な要因は、公的債務に占める国内投資家と海外投資家の割合です。図表3が示しているのは、公的債務の85%以上を国内投資家が保有する、ブラジル、インド、マレーシアのスコアが高いということです。一方、コロンビア、インドネシア、南アフリカ、とりわけトルコは海外投資家の保有比率が新興国の中央値を上回っています。

 

縦軸:2019年の対外債務(%、公的債務総額比)、横軸:2020年の借り入れニーズ(%、GDP比) 出所:ピクテ・アセット・マネジメント
[図表3]新興国の借入ニーズと海外投資家の保有比率 縦軸:2019年の対外債務(%、公的債務総額比)、横軸:2020年の借り入れニーズ(%、GDP比)
出所:ピクテ・アセット・マネジメント

問題を抱える3ヵ国

借入ニーズが最も大きいのはブラジル、公的債務に占める海外投資家の保有比率が最も高いのはトルコですが、最も脆弱なのは、巨額の借入を必要とし、かつ、公的債務の海外依存度も高い南アフリカだと思われます。

 

 

※データは将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。

※将来の市場環境の変動等により、上記の内容が変更される場合があります。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『新興国市場モニター:新興国の財政政策分析』を参照)。

 

(2020年6月18日)

 

 

投資家ご本人が、自ら考え、選び、投資をするプロセスを徹底サポート!
幻冬舎グループのIFAによる
「資産運用」個別相談会

 

 

幻冬舎グループがIFAをはじめました!
「お金がお金を生む仕組み」を作りたいけど、相談相手がいない…
この現実から抜け出すには?

 こちらへ 

ピクテは1805年、スイス、ジュネーブにおいて会社創設以来、一貫して資産運用サービスに従事し、運用サービスに特化したビシネスモデルを展開してまいりました。信用格付ではフィッチ・レーティングスからAA-の格付けを取得しております(2018年5月末現在)。注:上記の格付はピクテ・グループの銀行部門の債務の信用に対するもので、運用部門や運用能力に関するものではありません

1981年、日本経済や株式市場の調査を目的に東京事務所を設立しました。その後、1987年から機関投資家を対象とした資産運用サービス業務を開始、1997年には投資信託業務に参入し、運用資産総額は1.98兆円となっています(2018年12月末現在)。外資系運用機関の大手の一角として、特色ある資産運用サービスをお届けしております。

著者紹介

連載PICTETマーケット情報

【ご注意】
●当レポートはピクテ投信投資顧問株式会社が作成したものであり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。当レポートに基づいて取られた投資行動の結果については、ピクテ投信投資顧問株式会社、幻冬舎グループは責任を負いません。
●当レポートに記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当レポートは信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当レポート中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資家保護基金の対象とはなりません。
●当レポートに掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧