「税務・会計の仕事」がAIに潰されるって本当?
◆AIによる働き方の変化
税務・会計の業界は、「AIによって将来的に仕事を奪われる業種」として、さまざまな調査で上位にあげられています。もちろん、記帳代行や申告業務などパソコンに向かって数字を打ち込むだけの仕事は、近い将来AIに仕事を奪われることは間違いありません。
かつて会計の仕事はさまざまな企業に必要とされ経理や会計、税務の知識があれば仕事のつぶしがきくことは、ビジネスシーンではよくいわれてきたことです。ほんの数年前までは、経理・会計のスキルがあれば仕事にあぶれることがないといわれた安定した仕事だったのです。
しかし、時代の変化とともに必要とされる仕事も大きく変わるものです。たとえば、自動改札が導入されるまで駅の改札では切符を切る仕事がありましたが、現在では地方のごくごく小さな駅にしか残っていません。また、エレベーターの扉が手動式であった頃は、エレベーターガールが必ずいましたが、今はほとんど見かけることはなくなりました。
そしてAIがもっと進化した先には、会計に限らずホワイトカラーの職業も次々となくなる時代が来るといわれています。たとえば、金融業界では、人間のトレーダーよりも大量かつ迅速に、コンピューターがプレスリリースや決算資料を分析し、それに基づいた投資判断を下すようになる、など。
また、大手通販会社のAmazonは、人材採用にAIを活用したことで話題になりました。いずれは人材採用においてもAIが活躍する日が来るかもしれません。
本格的にAIの時代になれば、指示さえ出せば、さまざまな情報をソートして最適解を導き出すことができます。人はそのスピードや正確さにおいてAIには及びません。
当社の業務は、国際資産税を主業務として個人向けの税務やFAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)などさまざまな分野の業務があります。経営者や資産家といったクライアント一人ひとりに、最適な資産形成や税務のアドバイス、M&Aコンサルティングなどを提供します。
単に数字を打ち込むのではなく、常に新しいビジネスをスピード感をもって展開することが求められます。このように、AIでは実現不可能な創造性を要する業務によってこれまでの当社の成長があり、そしてこれからも成長し続けるという確信もあります。
法人を対象とした税務・会計のアウトソーシング業務は、今後AIを使った処理に置き換えられる可能性があります。そうなった場合、税務・会計のスペシャリストでさえも仕事を奪われてしまうかもしれません。
ですが、それに加えて国際資産税やFASの知識などを広範囲にわたって有するゼネラリストだったらどうでしょう? 国際資産税の分野でクリエイティブな能力を発揮することで、AIには難しい付加価値を生み出すことが可能となります。
「特定のスキルに優れたスペシャリスト」はいらない?
◆AI時代を見越した人材育成
AI時代の将来を見越して、スペシャリストかつゼネラリストの育成を目指しています。現状としては、当社はスペシャリストが大半を占めています。スペシャリストがたくさんいるほうが、実はコスト面では有利な点も多いのです。なぜなら、ゼネラリストになるには広範な知識を学ぶ必要があるため、その分教育にかかるコストも大きくなるからです。しかし一方で、スペシャリストだけでは、AI時代の今後は厳しいとも感じています。
極端な話をすれば、現在必要とされる業務のスペシャリストを雇って、もし将来的にそのスキルが不要となれば辞めていただいて、またその時代と業務内容に合ったスペシャリストを新たに雇う。そんな会社の有り様は、経営理念の「Treat as a family」(家族のように接する)からは大きく外れてしまうのです。
当社はスペシャリスト中心ではありますが、各分野の知識を共有することで他の分野でも評価できる仕組みを確立しています。
たとえば、国際資産税の仕事は、実にさまざまな知識が要求されます。税金一つとっても、所得税や法人税、相続税の知識が必要ですし、海外の株式や不動産といった広範囲な知識が必要になります。
そういった広い知識が求められる業務において税金、株式、不動産、M&Aなど分野ごとのスペシャリストだけで対応しようとすると、クライアントは、株式の話のときは株式のスペシャリストと、不動産の話のときは不動産のスペシャリストと、M&Aの話のときはM&Aのスペシャリストと、というように複数の担当者と話をする必要があり、非効率です。
また、スペシャリストはそれぞれの専門分野には詳しいですが、さまざまな種類の資産をもつクライアントに対して包括的な解決策を生み出すのは難しいでしょう。しかし、広範囲に知識を有するゼネラリストが1人いれば、クライアントの課題に対してさまざまな視点で考え、最適解を導き出すことができるようになります。
こういったゼネラリスト的な働き方ができる人になれるように、社員一人ひとりがもつ現状のスキルと今後身につけたほうがいいスキルを考えながら研修なども行っています。また直接、自分の部署とは関係ない情報も、会議の場などでシェアしますので、常に会社全体の業務について皆が意識して考える環境にあります。
退職の問題もあります。たとえ給料や待遇に不満がなくとも、「結婚して大阪に引っ越すことになった」とか「他の業界に転職したい」、あるいは当社は英語が堪能な人材も多いので「海外に移住することになった」ということもあるかもしれません。
私は、社員みんなと生涯にわたって一緒に働きたいと思っていますが、人の人生まで縛ることはできません。離職のリスクというのは会社には常にあって、誰かが辞めてしまった場合は、その穴を補填する必要があります。
そういったときも、特定のスキルに優れたスペシャリストだけの組織よりも、広範な知識を備えたゼネラリストが多い組織のほうが、抜けた穴をみんなでフォローしながら埋めることができるのです。
「学生と社会人」の決定的な違いとは?
◆学びながら働ける教育制度
ネイチャーには、高い語学力を身につけている人や税務を学んできた人など、さまざまな人材が夢と希望、そして意欲をもって入社してきます。しかし、そうした人たちも当社の業務内容が高度であることを目の当たりにすると、「果たして自分でもやっていけるだろうか?」と心配になる人もいるかもしれません。
とくに新人であれば誰でもそうした不安をもつことは当然のことです。そんな不安を払拭するために、当社では研修制度を充実させています。プロフェッショナルとして、そしてネイチャーの一員として個々が成長していくために、研修制度を通じた人材投資に力を入れています。
当社が実施する研修は、座学やウェブ研修などのOFF-JTで、中途入社の場合は最長で年間180時間、新卒は360時間以上、OJTを含めると年間500時間以上にもなります。また、教育研修費用についても企業平均(平成29年度「能力開発基本調査」厚生労働省)の5.8倍以上をかけています。
その一方で、気をつけていることがあります。学生時代とは違いますので「学ぶことが目的」になってしまっては本末転倒です。社会人であれば、研修で吸収した知識は必ず現場で活かすことが求められます。新しいことを学んで知識を吸収することは確かに楽しい行為ではあります。学生であれば、「学ぶこと」そのものに価値がありますが、社会人は、「学んだことを仕事に活かす」ことに価値があります。そこが「学生=アマチュア」と「社会人=プロ」との差です。
厳しいことを言うようですが、インプットはあくまでも仕事の成果につなげるための勉強や経験にすぎず、その経験や学習を元に実績や成果を上げていくアウトプットが必要というわけです。
芦田 敏之
税理士法人ネイチャー国際資産税