コロナ禍と中小企業…変化=承継チャンスと捉える経営者の決断

新型コロナウイルスの世界的流行により、多くの企業は経営悪化に苦しんでいる。もちろん、日本の中小企業が受けているダメージも甚大だ。だが、「コロナ禍」がもたらした危機は、中小ファミリー企業にとって改革のチャンスになりうると、ファミリービジネスの気鋭の研究者・静岡県立大学大学院教授の落合康裕氏は語る。経営環境の変化を「次世代を育成する絶好の機会」として強かに活用する方策を読み解いていく。

「従来の経験」だけでは乗り切れない、急激な環境変化

新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るっている。日本の多くの企業が、売上高や利益の減少に見舞われている。

 

このような企業活動に影響を与える経営環境の変化には、いくつかの種類が存在する。たとえば、法規制などの「政治要因」、為替や株価などの「経済要因」、人口構造などの「社会要因」、AIやIoTなどの「技術要因」、そして地震や感染症などの「自然要因」だ。

 

とくに自然要因は、ほかの要因と異なり突如として姿を現し、企業の経営状況を一変させてしまう。今回のコロナ禍における需要の急激な減少は、まさしく自然要因の影響によるものだ。

 

しかし、こうした環境変化は企業にとってネガティブな要因となるばかりではない。時に積極的な効果を生み出す場合がある。その代表的な例が「事業承継」である。

 

あああ
しがらみがない後継者の方が、思い切った行動が取れるかもしれない。

 

一般的な企業にとって、これまでの常識や経験が通じない変化への対応はむずかしい。このような、従来の方法が意味をなさない状況では、経験豊かな先代経営者が指揮を取っても、若い後継者と大きな違いは出せない。むしろ、急激な状況の変化は、経営者にとってゼロベースで経営を考えなければならない緊張を生み出す。その点、過去からのしがらみがない後継者の方が、思い切った行動が取れるかもしれない。そういった意味では、環境の変化が事業承継や後継者を育てるうえで絶好の機会となり得るのだ。

 

(出所)筆者作成
[図表]環境変化と後継者の自律性 (出所)筆者作成

事業復旧を主導し「次世代経営体制」を構築した例

『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』(2016年、白桃書房)に取り上げている「あみだ池大黒」(大阪府)の事例を見てみよう。

 

同社は、1804年創業の伝統的な和菓子メーカーである。五代目・小林林之助氏が六代目・小林隆太郎氏(現会長)に事業承継を決断したのが、1995年の阪神大震災のときであった。

 

西宮市に本社機能を持つ同社は、工場などに大きな被害を受けた。それだけではない。地震に伴う陸路の寸断によって、原材料の調達や販売店への商品供給の手段が絶たれ、売上や利益の見通しがきかなくなった。

 

震災後の混乱に満ちた状況のなか、六代目は事業復旧プロジェクトリーダーに任命される。六代目は、社内の従業員をまとめ上げ、船による大阪への商品輸送を行うなど、事業の再開の中心的役割を担った。同時に、これがきっかけとなって、六代目は従業員からの信任を取り付けた。この六代目のプロジェクトリーダーとしての一連の行動が、五代目から正式に後継者としての承認につながった。

未曾有の事態こそ「次世代の育成チャンス」に

あみだ池大黒の事例からは、経営の危機を世代交代に契機にしていることが学び取れる。後継者が担った事業復旧プロジェクトの仕事が、同社の事業承継において持つ三つの意味を考えてみることにしよう。

 

第一に、後継者が独自性を養う機会になっていることだ。通常、ファミリービジネスの後継者は、先代世代の強い影響力のもとで主体的な行動はとりにくい。しかし、震災後の事業復旧という前例のない状況では、先代世代の経験を活用することはできない。後継者は混乱に満ちた状況のなかで、自ら解決策を導き出さねばならない。これが、後継者に進取的な行動を促す環境を提供している。

 

第二に、後継者が主導する次世代組織の構築が意識されていることだ。事業復旧に関わる仕事は、全社を巻き込む業務である。将来の事業を担う後継者は、特定部門だけではなく、全事業部門を掌握せねばならない。しかし、後継者が一足飛びに組織から受け入れられることはむずかしい。それは、各部門に伝統的な慣習があるからである。

 

震災という緊急事態は、組織に緊張を与える。伝統的な慣習が一時ペンディングされることで、組織には後継者が活躍しやすい土壌が形成される。未知の環境のなかで、後継者は従業員と切磋琢磨して新たな展開を模索せねばならない。結果として、この取り組みが後継者と組織の従業員との絆を生み出すことになる。これが、後継者主導による次世代経営体制の発露となるのだ。

 

第三に、企業家精神を涵養する機会として経営危機を捉えていることだ。企業は持続的成長を図るために、幾多の環境変化を乗り越えていかねばならない。各世代の経営者は、伝統を継承するだけではなく、企業家(リスクを厭わず革新的な行動をとる人物)としての役割が求められる。しかし、平常時ではこのような仕事経験を後継者が積むことはむずかしい。未曾有の事態は、否応なしに後継者に重要局面での決断が求められる。その決断如何によって、組織の存続に影響をもたらす。そのような緊張状態が後継者としての覚悟を培うのだ。

 

今回のコロナ禍は、事例のような災害とは異なるが、従来と異なる対応が求められる状況に置かれるという点では共通している。急激な環境変化を経営上の危機として捉えるだけではなく、むしろ次世代の育成の機会として考えることは重要であろう。このような時代だからこそ、幾多の危機を乗り越えてきた老舗企業の事業承継に学ぶ意義があるのだ。

 

 

<参考文献>

落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房

 

 

落合 康裕

静岡県立大学 経営情報学部経営情報学科 教授

ファミリービジネス学会 常任理事

 

静岡県立大学大学院 経営情報イノベーション研究科 教授
事業承継学会常務理事
ファミリービジネス学会常任理事
 

1973年神戸市生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。経営学者。

大和証券株式会社入社後、本社人事部にて労務管理業務、大和証券SMBC金融法人部にて機関投資家に対するRM業務を担当。その後、研究者に身を転じ、2014年から日本経済大学、2018年より静岡県立大学に着任。

現在は、企業の事業承継問題について経営学の観点から研究を行う。静岡県立大学での研究教育活動を軸に、名古屋商科大学ビジネススクールや早稲田大学ビジネススクール等で事業承継講座(ケースメソッド)を担当するほか、行政機関主催の事業承継セミナーを担当するなど、後継者教育に力を注いでいる。

2015年には日本で初めてのファミリービジネスの実証研究書となる『ファミリービジネス白書2015年度版』を同友館から、2018年には『ファミリービジネス白書2018年度版』を白桃書房から刊行。同書の刊行時より企画編集委員長をつとめる。主な著書に『事業承継のジレンマ』『事業承継の経営学』(以上、白桃書房)など多数。

著者紹介

連載気鋭のファミリービジネス研究者が解説…コロナ禍に見出す「事業承継」のチャンス

  • 【第1回】 コロナ禍と中小企業…変化=承継チャンスと捉える経営者の決断
事業承継の経営学 企業はいかに後継者を育成するか

事業承継の経営学 企業はいかに後継者を育成するか

落合 康裕

白桃書房

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