高齢母の財産を狙う義弟…生前贈与で万一のリスクを減らせるか

遺産を巡る親族間の争いは珍しくありません。しかし、相続発生以前に財産を巡る争いが起きることもまた、珍しくないのです。大切な財産を守るにはどんな対処法があるのでしょうか。典型的な事例を取り上げ、解説します。※本記事は、株式会社トータルエージェントが運営するウェブサイト「不動産・相続お悩み相談室」から抜粋・再編集したものです。

認知症の父の口座から大金を引き出した兄が許せない

 【質 問】 


私の兄が、父親が認知症になりかけたとたん、父の貯金通帳とキャッシュカードを持ち出して1000万円もの大金を口座から引き出しました。これは犯罪ではないのでしょうか。このような裏切りを、家族として許せません。

 

兄の行為は窃盗罪と認められるのでしょうか? それとも民事不介入とされ、警察には取り扱ってもらえないのでしょうか?

 

 

 【回 答】 

 

兄が親の財産を勝手に持ち出すという行為は、刑法上の窃盗罪に該当します。

 

しかし、窃盗罪には該当するものの、刑法244条1項により、「配偶者・直系血族・同居の親族」が窃盗を行ったとしても刑を免除する、と定められているため、最終的に兄が罰せられることはありません。

 

(親族間の犯罪に関する特例)

第二百四十四条

配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

3 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

 

このような事態を回避するためには、認知症の兆しが現れてきた父親に、いち早く成年後見人をつけ、成年後見人によって財産管理がなされるようにするべきです。できるだけ速やかに手続きを行いましょう。

 

年老いた親のお金を勝手に…
年老いた親のお金を勝手に…

母親のお金に口出しする義弟、財産を乗っ取られそう…

 【質 問】 

 

このところ妹の配偶者である義弟が、相続権がないにもかかわらず、ことあるごとに母の財産について口を挟んでくるようになりました。妹夫婦は自営業を営んでいるのですが、あまり経営状態がよくなく、毎月の資金繰りにも苦労しているようです。

 

義弟は私の母の預貯金を生前分与してほしいと、母にしつこくいいつのっていて、母はそんな義弟をはねつけることができません。気が弱い妹も、義弟をいさめることができません。
 

相続人は長女である私と妹の2人です。私はシングルマザーで、父が亡くなったあと、母親と同居して生活全般の面倒を見ています。妹は結婚して家を出ています。私の母は、口頭では遺産分割の話をしてくれるものの、遺言書は書いてくれません。

 

母はすでに高齢であり、また、おっとりとした優しい人柄です。これまでも強く主張できない性格が災いし、トラブルに巻き込まれたり、不利な立場に追い込まれたりといったことがありました。そのため、万一のことを考えると非常に心配です。

 

母に遺言書を書いてもうことができればと思うのですが、あまり強くいうのも気が引けます。むしろ、このままにして母亡きあとに揉めるより、贈与税を払ってでも、母が生きているうちに財産の分割をしたほうがいいのではないかと思いはじめました。

 

母は、現金は私と妹で分配し、いま私と母が生活している実家は、生活を援助してきた私が受け継ぐよういっています。

 

配偶者がいない私は、義理の弟になめられているように感じます。このままでは、財産を義弟の勝手にされてしまう気がして不安です。何かいい方法はないでしょうか?

 

 

 【回 答】 

 

母親に遺言を書いてもらえない場合、相談者自身が遺産を確保するために取りうる手段としては、質問にもある通り、母親から財産を生前贈与してもらう、ということとなります。

 

とくにいま、相談者は実家で生活しているとのことですから、母親が亡くなったあとに実家の処分を巡って紛争となる恐れがあります。それを避けるための手段としては、実家の名義を生前贈与により移転しておくことが必須です。

 

もっとも、この方法には2つのデメリットがあることに注意しなければなりません。

 

1点目は、指摘の通り、相続税よりも高額の贈与税が発生してしまうことです。

 

このデメリットについては、相続後に揉めることによって発生する物理的・精神的コストと、生前の贈与税のコスト(税理士に依頼すれば試算してもらえます)を比較・検討して判断するしかありません。

 

2点目は、仮に母親から生前贈与を受けたとしても、母親が亡くなったときに、生前贈与された財産が妹の遺留分を侵害する価額まで及んでいた場合、取り消されてしまう恐れがあることです。

 

つまり、妹は遺留分として遺産総額の4分の1の権利を有していますので、相談者自身が生前贈与された財産が遺産の4分の3を超える場合には、妹の遺留分を侵害することになってしまいます。

 

この遺留分を巡る争いを避けるには、生前贈与を受ける財産が、母親の財産の4分の3を越えないようにすることが第一なのですが、どうしてもそれを超えてしまうことが避けられない場合は、妹に家庭裁判所で「遺留分の放棄の申立」をしてもらえれば、母親亡きあと、遺留分を巡る紛争になることを避けられます。

 

もっともそのためには、妹にも相応の金額を支払うなどして、遺留分の放棄に納得を得ておくことが必要です。

 

 

北村 亮典

こすぎ法律事務所 弁護士

 

髙木 優一

株式会社トータルエージェント 代表取締役社長

 

こすぎ法律事務所 弁護士

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。神奈川県弁護士会に弁護士登録後、主に不動産・建築業の顧問業務を中心とする弁護士法人に所属し、2010年4月1日、川崎市武蔵小杉駅にこすぎ法律事務所を開設。

現在は、不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理等に注力している。

毎月1回、大家さん向けの役に立つ裁判例のメールマガジン発行(メールマガジンご希望の方は、こちらの問合せフォームにて「メールマガジン登録希望」と書いてお申し込みください)。

著者紹介

株式会社トータルエージェント 代表取締役社長
相続診断士
宅地建物取引士

昭和46年2月生まれ。専修大学経営学部卒業後、不動産仲介、建売分譲会社に9年間勤務。32歳で独立し、株式会社トータルエージェントを設立。独立時は任意売却業務を中心に事業展開していたものの、7年前より不動産相続コンサル業務に特化。

毎週木曜日かわさきFMにて相続の専門家をゲストに招き「高木優一の不動産・相続お悩み相談室」にて情報発信する傍ら、相続コンサル会社が運営する葬儀社「合同会社春光舎」の代表社員としても活躍中。

著者紹介

連載弁護士・税理士・司法書士は見た!実際にあった相続トラブルの事例

本記事は、不動産・相続お悩み相談(http://www.fudosan-consulting.jp/)に掲載された記事を再編集したものです。

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