1.概観
【株式】
米国の株式市場は、堅調なマクロ指標と好調な業績を背景に、主要株価3指数が過去最高値を更新する場面もありましたが、その後は新型コロナウイルスによる肺炎の感染が世界的に拡大したことから急落しました。NYダウ工業株30種平均は▲10%を超える下落となりました。
欧州の株式市場も、域内の軟調な経済指標や、新型肺炎の世界的な感染拡大を受けた景気減速懸念を受けてリスク回避の動きが高まり、総じて下落しました。
日本の株式市場は、新型肺炎の世界的な感染拡大や、リスク回避の動きから円高・米ドル安が進行したことを受け、下落しました。19年10-12月期の実質GDP成長率がマイナスとなるなど、国内経済の鈍化も嫌気されました。
【債券】
米国では、新型肺炎の感染が世界的に拡がりをみせたことから、リスク回避姿勢が急速に高まり、安全資産とされる国債が買われました。米長期金利は月末にかけて低下幅を広げ、過去最低となる1.11%まで低下する場面がありました。また、米国社債と米国債の利回り格差は拡大しました。欧州(ドイツ)や日本の10年国債利回りも、概ね米長期金利に連動し、月末にかけてリスク回避の動きが高まったことから低下しました。
【為替】
米ドル、ユーロ、豪ドルなど主要通貨は対円で下落しました。新型肺炎の感染拡大リスクから安全通貨とされる円が買われました。
【商品】
原油先物価格は、新型肺炎の感染拡大が世界景気を悪化させ、原油需要の減少につながるとの思惑などから大幅に下落しました。
2.景気動向
<現状>
米国の19年10-12月期の実質GDP成長率は、前期比年率+2.1%となり、個人消費が減速した一方、在庫調整が進展しました。
欧州の19年10-12月期の実質GDP成長率は、前期比年率+0.2%となり、ドイツ等の不調が目立ち、速報値から下方修正されました。
日本の19年10-12月期の実質GDP成長率は、前期比年率▲6.3%と、消費増税前の駆け込み需要の反動減に加えて大型台風や暖冬の影響が重なり、個人消費や設備投資などが下振れたことから5四半期ぶりにマイナス成長となりました。
中国の19年10-12月期の実質GDP成長率は、前年同期比+6.0%となりました。
豪州の19年10-12月期の実質GDP成長率は、前年同期比+2.2%となりました。政府支出等がプラス寄与となりました。
<見通し>
米国は、新型肺炎の感染拡大によるセンチメントの悪化から景気が下振れる見通しです。米連邦準備制度理事会(FRB)は3月3日に0.5%の緊急利下げを発表するなど、景気の下支えを本格化しています。FRBは景気悪化に歯止めをかけるために追加緩和を実施する見通しです。
欧州は、製造業に底入れの兆しが見え始めていたものの、新型肺炎の世界的な感染拡大を受けて輸出が下振れし、景気回復時期が1~2四半期後ずれすると予想されます。欧州中央銀行(ECB)も、景気下支えのために金融緩和に踏み切ると予想されます。
日本は、消費増税や台風による影響から19年10-12月期のマイナス成長に続き、新型肺炎問題を受けて20年1-3月期もマイナス成長になると予想されます。外部環境の持ち直しや経済対策効果を受けて、景気回復時期は20年4-6月期以降になる見通しです。
中国は、新型肺炎の影響により20年1-3月期の実質GDP成長率は急減速すると予想されます。一方、4-6月期以降は、新型肺炎が収束することを前提に持ち直しが期待されます。政府は、金融政策に重点を置き、金利引き下げなどで下支えする見通しです。
豪州は、山林火災や新型肺炎の影響により、20年1-3月期は輸出入や個人消費の下振れが予想されます。豪州準備銀行(RBA)による追加利下げの効果等により、新型肺炎問題が収束する見通しとなれば、4-6月期以降に緩やかながら回復が見込まれます。
3.金融政策
<現状>
米連邦準備制度理事会(FRB)は、1月28-29日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利(FFレート)の誘導レンジを1.50~1.75%に据え置きました。声明文では、「米国経済は緩やかに拡大している」との判断が維持されました。
欧州中央銀行(ECB)は、1月23日の理事会で、金融政策の据え置きを決定しました。また、金融政策戦略の見直しを20年末までに完了すると宣言しました。
日銀は1月20-21日に開催した金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決定しました。
<見通し>
FRBは3月3日に、0.5%の緊急利下げを発表しました。主要中央銀行が緩和強化の方針を打ち出す中、金融環境の悪化防止が重要なテーマとなりました。FRBは3月のFOMCで0.25%、4月も0.25%の利下げを実施すると予想します。
欧州でも、ECBが3月、4月に0.1%ずつマイナス金利の深堀を実施すると同時に企業向け融資の促進のため貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)の拡大を実施すると予想します。英国中央銀行(BOE)は今月0.25%の利下げを実施すると予想します。金融市場に不安定な状態が続いた場合は4月も0.25%の利下げが実施されると考えます。
日本では、金融市場調整と資産買い入れ措置を通じた対応を継続すると思われますが、円/米ドルレートが直近短観の2019年度下期の想定レートである106円台後半を大きく超えて円高が進行した場合は、追加の緩和策が検討される可能性があります。
4.債券
<現状>
米国では、新型肺炎の感染が世界的な拡がりをみせたことから、リスク回避姿勢が急速に高まり、安全資産とされる国債が買われました。米長期金利は月末にかけて低下幅を広げ、過去最低となる1.11%まで低下する場面がありました。また、米国社債と米国債の利回り格差は拡大しました。
ユーロ圏では、新型肺炎の感染がイタリアなど欧州にも拡大したことや、域内の19年10-12月期実質GDP成長率など冴えないマクロ指標が嫌気されたことから、ドイツの10年国債利回りが低下しました。
日本の長期金利も、概ね米国に連動しながらマイナス圏で推移し、新型肺炎の世界的な拡大を受けて月末にかけて低下幅を拡大しました。
<見通し>
米国では、新型肺炎の拡大を受けたリスク回避の動きから内外の資金が米国債に流入していることやFRBによる追加緩和期待などから、長期金利は低水準で推移する見通しです。新型肺炎の影響が落ち着けば景気悪化懸念は徐々に後退するとみられ、長期金利は緩やかに上昇すると考えられます。
欧州でも、新型肺炎の拡大を受けたリスク回避の動きが強まり、長期金利は当面低水準での推移が続く見通しです。その後は、景気の循環的な持ち直しと共に緩やかに上昇すると考えられますが、景気回復は緩慢でインフレもECBの目標に届かないと予想され、上昇幅は抑制される見通しです。
日本では、19年10-12月期に続き、新型肺炎の影響を受けて20年1-3月期もマイナス成長になると予想され、日銀の緩和政策は長期化する見通しです。このため、長期金利も低位での推移が続くと考えられます。
5.企業業績と株式
<現状>
S&P500種指数の2月の1株当たり予想利益(EPS)は前年同月比+4.1%(前月同+4.1%)の178.77と、3ヵ月連続で最高益を更新しました。一方、東証株価指数(TOPIX)の予想EPSは119.26で、伸び率は同▲6.8%と13ヵ月連続のマイナスでした(リフィニティブI/B/E/S予想)。米国株式市場は、堅調なマクロ指標と好調な業績を背景にNYダウが12日に、S&P500種指数、ナスダック総合指数が19日にそれぞれ史上最高値を更新しました。しかし、その後は、新型肺炎の世界的な感染拡大や軟調な経済指標が嫌気され、米国株式市場も大幅安となりました。S&P500種指数が前月比▲8.4%、NYダウが同▲10.1%、ナスダック総合指数が同▲6.4%でした。一方、日本株式市場は、総じて新型肺炎の感染拡大懸念が重荷でしたが、中旬以降は、10-12月期の業績及び国内GDPの悪化などから下落しました。下旬は、新型肺炎の世界的な拡散から米国株式が大幅下落となり、ドル安・円高も進んだことから、日本株式市場も連日大幅な調整が続きました。TOPIXが前月比▲10.3%、日経平均株価が同▲8.9%でした。
<見通し>
米国株式市場は、今回の下落で、S&P500種指数の12ヵ月先予想株価収益率が16.6倍と、15年以降の平均水準まで一挙に修正が進みました。今後、業績の悪化は避けられませんが、緩和的な金融政策が米国株式市場の下支え要因になると期待されます。一方、日本株式市場も、政府や日銀の政策対応が待たれますが、新型肺炎の感染拡大に歯止めがかかることがより重要だと思われます。日本株式市場は当面、神経質な展開が続くと考えられます。
6.為替
<現状>
円は対米ドルで上昇しました。米国の好調な経済指標を手掛かりに米ドルは20日頃をピークに上昇しましたが、その後は新型肺炎の世界的な感染拡大を受けてリスク回避の動きが急速に強まったため円が買われました。一時、1米ドル=107円台と4ヵ月ぶりの円高水準となりました。
円は対ユーロで上昇しました。ユーロ圏の景気先行き懸念を示す指標が相次いだことや、新型肺炎の世界的拡大によるリスク回避の動きを受けて円が買われました。
円は対豪ドルで上昇しました。新型肺炎の世界的な感染拡大を受けてリスク回避の動きが高まり、円が対豪ドルで買われました。また、豪州準備銀行(RBA)の利下げ観測も、豪ドルの重石となりました。
<見通し>
円の対米ドルレートは、米国が追加緩和に踏み切る可能性が高まったことや米大統領選挙など政治的不透明感の強まりから、米ドル安・円高が進むことも考えられます。新型肺炎の感染拡大に収束の兆候が見られるか、注視が必要です。
円の対ユーロレートも、ECBが今月、来月とマイナス金利の深堀りを実施すると同時に企業向け融資の促進のための貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)の拡大を実施するとみられることから、ユーロ安が進みやすいと考えられます。
円の対豪ドルレートは、新型肺炎の感染拡大により豪ドルの売り圧力が高まっています。感染拡大はいずれピークアウトし、豪ドル安への圧力も後退するとみられるものの、その時期は不確定であるため、当面は豪ドルがやや水準を切り下げて推移するとみられます。
7.リート
<現状>
グローバルリート市場(米ドルベース)は、新型肺炎の感染拡大への懸念などから主要国の長期金利が低下したため、相対的に利回りの高いリート市場は堅調に推移しました。しかし、感染が中国以外の世界各地へ拡大していることが確認され、株式市場をはじめ金融市場が全面的にリスク回避の動きとなったことから、月末にかけて急落し、▲8.44%の下落となりました。また、円ベースの月間変化率では、米経済の底堅さを背景に米ドル高が進んだ場面がありましたが、月末にかけて急速に円高が進行したことから、同▲8.88%の下落となりました。
<見通し>
新型肺炎の感染拡大や景気減速懸念を受けて、米国では、FRBが3月3日に緊急利下げに踏み切りました。追加緩和の可能性も高まっていることから、米国の長期金利は低水準での推移が続くとみられ、リート市場には高い利回りを求める資金の流入が続くと予想されます。一方、Jリート市場では、新型肺炎問題からホテルリートが悪影響を受けてはいるものの、物流リートの外部成長やオフィスリート、住宅リートの内部成長、着実な財務コスト低減とバランスのよい分配金成長、といったドライバーは継続しています。相対的に高いリート配当利回りに着目した先高観は根強いとみられ、底堅い推移が見込まれます。
8.まとめ
<債券>
米国では、新型肺炎の拡大を受けたリスク回避の動きから内外の資金が米国債に流入していることやFRBによる追加緩和期待などから、長期金利は低水準で推移する見通しです。新型肺炎の影響が落ち着けば景気後退懸念は徐々に後退するとみられ、長期金利は緩やかに上昇すると考えられます。
欧州でも、新型肺炎の拡大を受けたリスク回避の動きが強まり、長期金利は当面低水準での推移が続く見通しです。その後は、景気の循環的な持ち直しと共に緩やかに上昇すると考えられますが、景気回復は緩慢でインフレもECBの目標に届かないと予想され、上昇幅は抑制される見通しです。
日本では、19年10-12月期に続き、新型肺炎の影響を受けて20年1-3月期もマイナス成長になると予想され、日銀の緩和政策は長期化する見通しです。このため、長期金利も低位での推移が続くと考えられます。
<株式>
米国株式市場は、今回の下落で、S&P500種指数の12ヵ月先予想株価収益率が16.6倍と、15年以降の平均水準まで一挙に修正が進みました。今後、業績の悪化は避けられませんが、緩和的な金融政策が米国株式市場の下支え要因になると期待されます。一方、日本株式市場も、政府や日銀の政策対応が待たれますが、新型肺炎の感染拡大に歯止めがかかることがより重要だと思われます。日本株式市場は当面、神経質な展開が続くと考えられます。
<為替>
円の対米ドルレートは、米国が追加緩和に踏み切る可能性が高まったことや米大統領選挙など政治的不透明感の強まりから、米ドル安・円高が進むことも考えられます。新型肺炎の感染拡大に収束の兆候が見られるか、注視が必要です。
円の対ユーロレートも、ECBが今月、来月とマイナス金利の深堀りを実施すると同時に企業向け融資の促進のための貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)の拡大を実施するとみられることから、ユーロ安が進みやすいと考えられます。
円の対豪ドルレートは、新型肺炎の感染拡大により豪ドルの売り圧力が高まっています。感染拡大はいずれピークアウトし、豪ドル安への圧力も後退するとみられるものの、その時期は不確定であるため、当面は豪ドルがやや水準を切り下げて推移するとみられます。
<リート>
新型肺炎の感染拡大や景気減速懸念を受けて、米国では、FRBが3月3日に緊急利下げに踏み切りました。追加緩和の可能性も高まっていることから、米国の長期金利は低水準での推移が続くとみられ、リート市場には高い利回りを求める資金の流入が続くと予想されます。一方、Jリート市場では、新型肺炎問題からホテルリートが悪影響を受けてはいるものの、物流リートの外部成長やオフィスリート、住宅リートの内部成長、着実な財務コスト低減とバランスのよい分配金成長、といったドライバーは継続しています。相対的に高いリート配当利回りに着目した先高観は根強いとみられ、底堅い推移が見込まれます。
※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2020年2月のマーケットの振り返り』を参照)。
(2020年3月4日)