「お金の教養」は「人生の必須科目」と言っても過言ではないほど重要なものです。学校では教えてくれないからこそ、親による家庭教育が必要です。本連載は、「富のスペシャリスト」として知られる株式会社スガシタパートナーズの代表取締役・菅下清廣氏の著書、『一生お金に困らない子どもを育てる45のルール』(PHP研究所)より一部を抜粋し、自分の子どもに、より豊かに、賢く生きてもらうための「お金の話」を紹介していきます。

お金の知識をつけ、上手に付き合うことが豊かさのカギ

本連載を読んでみただけでも、お金の教養とは人生の教養、もっといえば幸せを叶えるための教養である、ということが少しずつおわかりいただけたと思います。幸せな人生を送るには、ある程度の経済的な豊かさがなくてはいけません。

 

大富豪とまではいわずとも、ちょっとしたお金持ちになることが幸せの土台になる。「お金なんてなくても…」という意地や建前を取り除けば、これは誰もが、嘘偽りなく納得することでしょう。

 

しかし、もはやサラリーマン人生が、勤続年数によって昇格・昇給するといったエスカレーター式の豊かさをもたらしてくれる時代ではありません。どんな学歴をつけるか、どんな企業に就職するかではなく、どれだけお金を知り、お金と仲よくなっておくかが、豊かさのカギなのです。

お金を通じて子どもを「社会」と触れさせる

これからお話ししていくお金の教養は、子どもの人生にだけかかわるものではありません。まず親自身がお金の教養を見直し、不足している教養を身につけることで、いつまでも楽しく豊かな人生の扉を開く必要があるからです。いくら頭がよくても、自分がやったことのないことを子どもに教えることは、なかなか難しいものです。

 

自分がある程度のお金の教養を身につけたら、どこから子どものお金の教育を始めるか考えてみましょう。まずできることは、お金を通じて、子どもを「社会」というものに触れさせることです。もし「自分は外で働き、子どもは奥さん(あるいは旦那さん、という方もいるかもしれません)に任せる」という旧来型の価値観を持っているのなら、すぐに改めたほうがいいでしょう。

 

子どもの年齢にもよりますが、教えるのは、ほんの小さなことからでいいのです。「君のお小遣いは、どこから出ていると思う? お父さんやお母さんが仕事をして稼いだお金の一部なんだよ。お父さんやお母さんは、どうやってお金を稼いでいると思う?」

 

こんな何気ない会話だって、お金の教育の立派な糸口になります。「お金はこんなふうにして世の中を巡っていて、その仕組みのなかに入ることで、今、手元にあるお金を殖やすこともできるんだよ」

 

これは、れっきとした投資入門の話です。世の中のお金の流れや、会社がどうやって企業活動をしているかを説明すれば、子どもと投資の話だってできるのです。「君も、お父さんやお母さんのように会社員になってお給料生活をするのか、それとも、もっと別の形でお金を得る生き方をするのか、これから社会というものを知って、少しずつ考えていきなさい」

お金の教養は、学校では教われない人生の必須科目

お金の話は、こんなふうに子どもの人生設計の話にもつながります。「子どもは、寝ることや遊ぶことが仕事。世知辛い世の中は、そのうち嫌でも知ることになる。人生設計についても、いずれ考えなくてはいけない時期がくる。だから、今のうちはファンタジーの世界にいさせてあげたい…」

 

こんな親心が働く人も、いるかもしれません。我が子かわいさのあまり、許される限り甘やかしたいというのも理解はできます。しかし、その反面、これはみずからが知らないことを学ぼうとしない、教えようともしない、という親の怠慢にも見えてしまいます。

 

いずれ知ること、考えることになるのなら、早く知ったり考えたりしておいたほうがいいと思いませんか? 子どもの好奇心や吸収の速さには、目を見張るものがあります。その貴重な時期に、学校では決して教えてくれないお金の教養を、親が教えてあげてほしいというのが、本書を書いた私の切なる願いです。

 

お金の教養は、人生の必須科目です。親が守ってやれる間であれば、仮に子どもがお金で失敗しても、人生の致命傷にはなりません。教えるのは早ければ早いほど、いいのです。親の目の届くところで、ときには失敗しながらも、少しずつ、幸せなお金持ちになる土台をつくっていく。親子で一緒に試行錯誤しながらお金のトレーニングを積むことで、自然と、子どもの幸せを叶える教養にまで高めていきましょう。

「インフレになると何が起こるのか」に答えられるか?

お金の教養は、あれば便利かもしれないが、なくても困りはしないもの。もしそう思っているとしたら、これも大きな間違いです。

 

まず、親がお金の教養をつけないままでは、子どもを豊かにできないばかりか、将来、得られるはずの財産が減ってしまう可能性すらあるのです。たとえば、相続税です。財産を残すのは、少しでも子どもの生活を助けるためですよね。

 

ところが、ただ銀行口座に預金をしておくだけでは、まず、それ以上に殖えることはあり得ません。しかも、基礎控除額を超える財産がある場合には、子どもが相続した時点で最低でも10パーセント、多くなると55パーセントもの相続税を納めることになります。

 

親が子に、より効率的に財産を残すには、やはりお金の教養が必要です。お金を生み出し、殖やす。そして最終的に、どういう税制で、どれくらい国に納めなくてはいけなくなるのか。ここまで含めて「資産形成」に関する知識、体験、実績を積み重ねることが、お金の教養なのです。

 

それには、経済の基本的な知識も必要です。たとえば、「インフレ」とは何でしょう。デフレ時代には5000万円だったマンションが、インフレ傾向に変化した今では6000万円になった、なんて話はよく聞きますよね。

 

つまりインフレ(インフレーション)とは、物価が上がること…たしかにそうなのですが、この答えだけでは50点です。インフレになると何が起こるか、というメカニズムまでわかっていないと、お金の教養とはいえません。

 

簡単にいえば、インフレとは物価が上がること、そして同時に「キャッシュの価値が下がること」を意味します。つまり、コツコツと貯金をしても、景気によって銀行口座にあるキャッシュそのものの価値が下がる場合があるわけです。この点を見落としてはいけません。極端なことをいえば、子どもが相続するころにはさらにインフレが進んでいて、せっかく貯めたキャッシュが半分の価値になっている可能性だってゼロではないのです。

 

お金の教養がある人は、このあたりのことがよくわかっています。だから、財産をキャッシュで残して、そこからさらに子どもに相続税を払わせる、なんてバカバカしいことはしません。

 

株式や国債として残したり、ゴールドなどの現物資産に変えておいたり…。これらの方法でもそれなりに相続税はかかりますが、まず前提として、これらの資産は利子(インカム・ゲイン)や値上がり益(キャピタル・ゲイン)などでお金が「殖える」資産です。キャッシュで残すより、はるかに多くを子どもに引き継ぐ方法といっていいでしょう。

幼い頃から「お金への関心」を持たせることが大切

お金の教養は人生の必須科目。私がそう考える理由は、もう十分におわかりいただけたかと思います。「資産形成」なんていうと、まるでプラスアルファの選択肢のように思っている人もいます。「してもいいけれど、でも、何もしなければ失うこともないのだから、別にいいや」というような考え方です。

 

しかし、「資産形成」には、多分に「資産防衛」の意味合いも含まれます。財産をつくり、殖やすこと、そのための知識や体験が、じつは、財産を戦略的に守ることにもつながるわけです。

 

そしてもっとも重要なポイントは、学校では、いっさい、こうしたことは教えてくれない、ということです。学校のお勉強ができるだけでは、豊かにはなれないのです。ですから、どんなささいなことからでも、お金の教育を始めましょう。

 

あの世界三大投資家の一人、ジム・ロジャーズ(他にウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス)は、2人の幼い娘に、まず貯金箱をプレゼントしました。そして、何かのお手伝いをしてお小遣いをもらったらその貯金箱へ入れる習慣を、4歳、5歳のころから教えたと、著書のなかで話しています。

 

子どもに貯金箱をプレゼントしよう
子どもに貯金箱をプレゼントしよう

 

子どもが幼くても、まず親がお金の教養を身につけ、小さなことからでも、子どもにお金への関心を持たせましょう。詳しくは本書『一生お金に困らない子どもを育てる45のルール』にてご紹介していきますが、具体的には、子どものために株や国債を買ったり、ある程度子どもが大きくなったら一緒に投資先を考えたりしてみる、などといったことです。

 

口うるさく「勉強しなさい」というより、もっと積極的でクリエイティブ、そして本当に子どもを幸せにできる家庭教育をする。これこそが、現代の親が果たすべき役割です。

「自分でお金を稼ぐ」という体験が投資マインドを育む

周囲を見渡してみると、日本の子どもたちは、本当にお金と縁遠い環境で育っているなと思います。親の保護下にある間に、お金に触れる機会がはたしてどれくらいあるでしょうか。「お店屋さんごっこ」のオモチャのお金では、話になりません。「ごっこ遊び」もしないよりはいいかもしれませんが、せっかくなら、早いうちから「本物のお金」に触れさせてあげてほしいと思います。

 

その点、アメリカの子どもたちは、もっとお金と親密です。たとえば、お小遣いが報酬制であるという家庭の話は、よく聞きます。ゴミ出しをしたら何ドル、ベッドメイキングをしたら何ドル、ママの料理を手伝ったら何ドル、といったお小遣いの支給方法が、ごく普通の一般家庭でも行なわれています。

 

ガレージセールで、年端もいかない子どもがレモネードやホットドッグを売っている風景も日常茶飯事です。10代になりたてくらいの女の子が、近所の奥さんがちょっと出かける間にベビーシッターをして数ドルの報酬を得る、といった話もよく聞きます。日本では、アルバイトは高校生からとほぼ決まっていますが、アメリカの子どもたちは、こうして幼いころから「自分でお金を稼ぐ」という体験をしているのです。

 

ほんの数ドルであっても、「自分でお金を生み出す」という体験は貴重です。家庭やご近所さんという小さな「社会」にかかわることで、お金のやりとりが生まれる。この感覚は、将来、自分がもっと大きな社会にかかわることでお金を稼ぎ、自活していくということを、リアルに想像する源になります。

 

また、そのわずかなお金を、使うのか、貯めるのか、はたまたそれを何かの元手とするのか。それを考えることで、ごく自然に、お金を生む、貯める、殖やすという発想も生まれます。こうしてアメリカの子どもたちは、日本の子どもたちよりずっと早くから投資マインドが育ちやすい環境にあるのです。

 

日本では、お手伝いに報酬をつけることに賛否両論あるようですが、私は、とてもいい教育だと考えます。自分の行動、もっといえば「貢献」によってお金が生まれるという体験は、ごく初歩的なお金の教養になるからです。「お金は降ってくるものではない」ということを子どものころから理解しておくのは、大切なことです。

 

といっても、日本では月々、決まったお小遣いをあげることが一般的ですから、いきなりお小遣いを報酬制にするのは難しいかもしれません。であれば、やはりまずは、日常の会話のはしばしに、「お金」というテーマを織り交ぜていくといいでしょう。

まずは親がお金の教養を身につける

そこで問題となるのは親の教養ですが、それ以前に問わねばならないのは、働く親がどれくらい子どもと接しているか、ということです。

 

たとえば、銀行や証券会社など、金融ビジネス系の仕事をしている親ならば、かなりのお金の教養が備わっているはずです。ところが、朝早く出かけて夜遅くに帰ってくる毎日で、一番よく見るのは子どもの寝顔…なんて生活では、せっかくの知識や体験を子どもに伝えることができません。

 

実際、大手の証券会社に勤めているけれど、子どもとはいっさい、お金の話をしたことがない、という話はよく耳にします。子どものほうは親の仕事の話を聞いたことがないから、関心を持たない。当然、お金の教養が身につくはずもなく、親がくれたお金を、ただただ消費に回すのみ…。

 

せっかく親に豊富な知識と体験があるというのに、教育に生かしていないとは、なんともったいないことでしょう。もし、この親が週に一度でも早く帰ってきて、子どもとテーブルを囲みながら自分の仕事の話をしていたら、それだけでも、子どもはお金の教養をぐんぐん身につけていくに違いありません。いわんや、自分にはお金の教養がないと感じている親であれば…厳しいことをいうようですが、よりいっそう意識を改め、家庭教育にあたらねばなりませんね。

 

子どもの幸せのために、まず親がお金の教養を身につけること。と同時に、そもそも働いている親は、どれくらい家庭教育にかかわっているのか。

 

こと「家庭」と「仕事」、「子育てする親」と「働く親」を分けて考えがちな日本の風潮のなかでは、こんな原点から問いなおさなければいけないのかもしれません。お金の教養を身につけるというのは、いってみれば、親子でスイミングスクールに通うようなものです。

 

子どもに教えるために、親が少しリードしておく必要はありますが、子どもと接する時間をもっと増やして一緒に体験し、うまくできるようになっていけばいい。そんな意識で、お金の教育を始めていただければと思います。

 

 

菅下 清廣
株式会社スガシタパートナーズ 代表取締役

一生お金に困らない子どもを育てる45のルール

一生お金に困らない子どもを育てる45のルール

菅下 清廣

PHP研究所

老後破産、下流老人などの言葉が身近になった昨今。子どもにお金の苦労をさせたくない!そう思ったら、できることはたくさんあります。 本書では、「経済の千里眼」の異名をもつプロ投資家が、学校では教えてくれない「お金…

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