「相続トラブル」は、もはや富裕層だけの問題ではなくなりました。お金が関わった瞬間に豹変する家族を知り、絶望に暮れる例が相次いでいます。そこで本記事では、遺産相続の法律問題を中心に取り扱うCST法律事務所代表・細越善斉弁護士が、相続トラブルの事例を紹介し、具体的な解決策を提案します。

「早くきょうだい間のいざこざから解放されたい」

【相談事例】

私の姉の相続です。遺言書はありません。

 

姉(長女)、私(長男)、弟(次男)、妹(次女)の4人きょうだいでしたが、姉は生涯独身で、両親もすでに他界していたため、相続人は、私と弟、妹の3人でした。遺産は不動産と預貯金です。

 

3人で遺産分割協議を何度か行いましたが、弟は、「自分は姉と一番親しかったし、ひんぱんに姉のもとを訪ね面倒を見てきたので、遺産を多くもらえるはずだ」と主張しています。姉が亡くなってから半年が経ちましたが、協議がまったく進まず、調停等を検討しなければいけない状況です。妹は、長男である私にすべて任せるので自分は何もいらない、「早くきょうだい間のいざこざから解放されたい」といっています。

 

私としては、弟の好き勝手にはさせたくない一方で、妹にこれ以上負担を掛けたくないという思いがあります。妹だけを遺産分割協議の当事者から脱退させる方法はないのでしょうか?

 

相続人の範囲は、原則として戸籍等から明らかですので、相続人全員で遺産分割協議をしなければいけません。一部の相続人を除いた遺産分割協議は無効となります。一向に協議が成立しない場合は、相続人全員を当事者として、「遺産分割調停」を申し立てなければいけないのが原則です。

 

相続人は、被相続人との一定の身分関係に基づき、当然に相続権を有することになりますが、なかには相続することを望まない相続人もいます。そのような方は、まず、① 遺産分割協議において、自分は相続財産を取得しない、との内容で合意することが考えられます。

 

しかし、本人がそれで納得していても、ほかの相続人間で遺産分割の話がまとまらなかったら、結局は調停にせざるを得ません。その場合、相続を望まない相続人も、当事者として遺産分割調停に関与し続ける必要があります。

 

そこで、次に、② 相続放棄(民法915条1項本文)をすることが検討されます。相続放棄は、被相続人の財産を相続しないで放棄することであり、相続開始を知った時から3ヵ月以内に、家庭裁判所へ申述して行います(同915条1項本文、同938条)。これにより、相続放棄した相続人は相続権を喪失します(同939条)。

 

さらに、③ 相続分の譲渡(民法905条)や相続分の放棄により、遺産分割協議の当事者から脱退することも可能です。

 

妹はきょうだいのドロ沼相続に苦しんでいた
妹はきょうだいのドロ沼相続に苦しんでいた

「相続分の譲渡」と「相続分の放棄」の違いは何か

相続分の譲渡とは、遺産に対する相続人の「相続割合」を、譲受人に移転することを指します。この場合の遺産とは、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産も含みます。譲渡人は遺産に対する相続割合を有しないことになるため、相続分の譲渡以降は、遺産分割の当事者になる必要がありません。

 

譲受人がほかの相続人の場合、譲渡を受けた分だけ相続割合が増えることになり、譲受人が第三者の場合、その譲受人を含めて遺産分割協議を行う必要があります。

 

相続分の譲渡は、相続放棄と異なり時期の制限がなく、また、家庭裁判所の手続を経る必要もありません。いったん遺産分割協議に参加したものの、相続人間の人間関係が鬱陶しくなり、途中で遺産分割協議から離脱したいような場合にも行うことができます。

 

遺産分割調停に際して、相続分譲渡証書(譲渡人は署名及び実印での押印)と譲渡人の印鑑証明書を添付することで、相続分譲渡をした相続人は、遺産分割調停から離脱することができます。

 

なお、相続分の放棄によっても、遺産分割の当事者から脱退することができます。相続分の放棄とは、遺産に対する相続人の相続割合を放棄することです。「相続分の譲渡」が、特定の譲受人が譲渡者の相続割合を取得するのに対し、「相続分の放棄」は、放棄者の相続割合を、ほかの相続人が相続割合に応じて取得することになります。

 

 

以上のとおり、遺産分割の当事者から脱退するためには、相続放棄や相続分の譲渡・放棄をすることが考えられます。

 

事例のケースでは、相続開始からすでに半年が経過しているため、原則として相続放棄をすることはできません。もっとも、次女は「長男にすべて任せる」と発言しているため、次女から長男に対し相続分の譲渡を行い、次女を遺産分割の当事者から脱退させるのがよいでしょう。そのためには、次女が署名し実印で押印をした相続分譲渡証書と、印鑑証明書を交付してもらう必要があります。

 

 

細越善斉

CST法律事務所代表

弁護士

本連載は、CST法律事務所「相続ONLINE」の記事より転載・再編集したものです。
※掲載された内容はすべて架空の事例です。

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