被災したときに使用できる公的制度の数々
令和元年台風被災者の方にお見舞いを申し上げます。
台風15号は千葉県をはじめとして、東京、神奈川などの首都圏、茨城、静岡にも猛烈な被害を与えた。千葉県の農林水産被害は367億円を超え、同県では3.11以上の被害総額になる見込みだ。そして、千葉県南部、横浜市金沢区福浦地区、伊豆大島などは、復旧の目途が立っていない。
その後の台風17号でも、西日本各地に被害を与えた。特に宮崎県で撮影されたという鉄塔が倒れている写真は、台風の脅威を伝えるものであり、記憶に新しい。
振り返ってみれば、2016年熊本地震、大分県中部地震、2017年九州北部豪雨、2018年大阪北部地震、7月の豪雨(西日本豪雨)、台風21号、北海道胆振東部地震など、毎年予期せぬ災害が起きている。
来年もどこかで大きな災害があるかもしれないと考えるのは自然なことだ。そこで本記事では、公的な支援制度を確認し、その性質を理解する。そして、簡単にできる災害対策の1つとして火災保険を紹介する。
1:り災証明、被災届出証明書の発行
各都道府県では、「り災証明」を発行しており、この証明を貰わないと受けられない公的支援がある。
一般的に「り災証明」を貰うと、固定資産税や市県民税などの減免、市税の徴収猶予、国民健康保険・介護保険料・後期高齢者医療保険料・国民年金などの減免や猶予を受けることができる。
また、障害福祉サービスにおける利用者負担の一定期間の免除、保育所保険料の減免、一般廃棄物処理手数料の減免、自動車税の減免、生活福祉制度による貸付金の融資、災害復興住宅融資、災害援護資金の貸付け、学用品の給与などもある。
こうして並べてみると、り災証明がいかに役立つものかわかるだろう。被災したときはまず最初に思い出してほしい。り災証明とは、被災したという公的な証明なのだ。
なお、上記の制度は各自治体によって要件が異なっていたり、内容が変わってきたりするため、今回はすべてを記載することはできない。注意したいのは、り災証明を取得すれば自動的に適用されるのではなく、あくまで自主的に申請しなくてはならないという点だ。これらの制度は、ただちに生活を復旧するものではない。負担を軽減したり、時間的な猶予を与えたりする制度と捉えてほしい。
◆地域独自の支援制度
ユニークな支援制度を設けている自治体を紹介したい。
神奈川県鎌倉市では小災害見舞金という制度があり、台風15号の被災者(鎌倉市在住で、店舗や事業所を持つ人)が対象となっている。金額はわずかであるが活用したい。
また、静岡県伊東市では、り災証明の発行に合わせて、被災者自立生活支援補助金、伊東市災害見舞金、伊東市社会福祉協議会見舞金、静岡県共同募金会による見舞金の案内も行っている。そのほか伊東市では、上下水道料金などの減免、下水道受益者負担金の徴収猶予、台風被害にかかる修繕なども、リフォーム助成制度として組み込まれている。
最後に、東京都世田谷区では一般的な支援のほか、大きな被害を受けた世帯に対して見舞金や毛布の提供も行っている(これを知ったときは「流石世田谷区だ」と唸ってしまった。自治体の特色がよく表れているといっていい)。
住家に付随する家財道具、門柱などの外構が壊れた場合は被災届出証明書を発行してくれる。これには、り災証明ほどの効果はないが、保険の申請などで役立つことがあるかもしれない。
2:被災ゴミの受付
災害で発生したゴミの受付は、多くの市町村で実施されている。
千葉県の各市町村は当然のこと、茨城県では茨城県災害条例が適用され、農林水産業の支援を行っているが、それだけではなく、潮来市、神栖市、鹿嶋市、稲敷市(稲敷市ではり災証明が必要とHPに明記)などでは被災ゴミの受入れも行っている。神奈川県横浜市、三浦市、鎌倉市も同様だ。
なお、被災ゴミと一般ゴミの区別を厳密に行っている市区町村もあるので、注意しておきたい。また、被災によって想像以上にゴミが発生し、住宅などが汚れてしまった場合は、消毒の仕方なども自治体が相談に乗ってくれる。
3.災害見舞金、災害弔慰金、被災者生活再建支援法の適用
住家が全焼、全壊、流失、半焼、半壊をしたり、自然災害によって亡くなられた方、自然災害で障害を負った方がいたりする場合は、被災者生活再建支援法による支援(り災証明が必要である。台風15号では例外的に一部損壊の世帯にも適用された)、災害見舞金、災害弔慰金といった制度がある。
児童手当の特例も、り災証明が不要であり、児童扶養手当の特例も一部り災証明不要(千葉県君津市:10月10日時点)だ。独立行政法人日本学生支援機構による支援金も、一定条件のもとで給付される。
公的な支援というと、この災害見舞金や災害弔慰金のように、お金が配られるとイメージする方も多いかもしれないが、実際はレアケースである。これらは適用条件が厳しく、事態の重大さに比べ、支払われる金額は微々たるものにすぎない。
4.そのほかの相談受付
そのほかには、被災した住家などの消毒についての相談、緊急採用奨学金(り災証明不要)、教職員住宅の開放(千葉県)、国家公務員合同宿舎の無償貸出し(千葉県)、UR賃貸住宅の無償貸出し(千葉県)、県営住宅の無償貸出し(千葉県南房総市)などがある。金銭以外の支援も、積極的に展開されていることがわかる。
被災後、従来の生活を取り戻すには「自助」が必須
以上、災害被害者を支援する公的な制度を見てきた。
これらを受けるためには、り災証明を取得することが第一歩だと考えてほしい。り災証明を申請して、次にそのほかの制度の利用申請をするということになる。り災証明を申請中の方は、り災証明届出証明書を書くことで、各種支援制度を利用できることもある(スムーズに申請をするため、被害を受けた場合は、片付ける前に現場の様子を写真に撮っておくことをお勧めする)。
これらの支援制度は非常に多岐にわたるため、役所内に制度一覧がない場合はおそらく把握しきれないだろう。担当者に専門的な知識がないことすら考えられる。
被災前から存在する支援制度もあれば、被災後の特別措置もある。その上、日本学生支援機構のような独立行政法人からの支援もある。支援制度の情報は常に更新されるので、被災後は、こまめに確認することをお勧めする。
被災地を視察に来た地方議会議員、国会議員に対しては遠慮なく要望を伝えることも大切だ。被災者支援は地方自治体が中心となって行う。地方議員への提案は重要になるだろう。提案内容や陳情内容が、そのときすぐに自治体の被災者支援策として採用されなくとも、今後の被災者支援に役立つことがある。現に台風15号では、一部損壊の世帯も被災者生活再建支援法の対象となるなど、現状に合わせた対応が実施された。
先ほども述べたが、これらの公的な制度は、あくまで大きな被害を受けた人が、もとの生活へ戻るために必要な資金の一部を援助する、負担を一部減らすに留まる。そのため、被災後に本来の生活取り戻すには、被災者自身が動かなくてはならない。「自助」が前提となっているのだ。
◆住宅に影響が及んだ場合はどうする?
普段からできる災害対策として、一番わかりやすく補償が大きいのは、住宅や事務所に掛ける保険だろう。
ご存じの読者も多いだろうが、いわゆる火災保険には水災、風災、落雷の補償が含まれていることが多い。対象となるのは、これらの被害によって起きた器物の損傷である。土砂崩れによる被害も保険対象となる可能性があるため、被害を受けた場合は相談してみるとよい。なお、水災では、床上浸水(地盤面から45cmを超えた浸水)が条件となっているところが多いようなので、注意が必要だ。
保険の申請をする前に、被災した部屋を片付けてもいいのかと考える方もいるかもしれない。結論からいうと、片付けることについては問題ない。だが、り災証明を取得するときと同じく、被害状況を撮影しておくとよいだろう。保険の鑑定人が鑑定するときの参考にしてくれるはずだ。
被災して使えなくなった家具は、その家具のメーカーと型番がわかるとよい。不明の場合は、いつどこで購入したものかを覚えておくと、型を調べるときに役に立つだろう。
どうしても備品の型番を調べられない、けれど緊急で補償して欲しいという方は、代理店と相談することで、解決の糸口が見つかるかもしれない。特に、被災された事業者の方で、当座の運転資金が必要な場合などは、交渉してみるのも手だ。
台風で外壁にほんのちょっと傷がついて、気になっているけど保険が使えるかわからない、確証がないこともあるだろう。そんなときは、被災調査をしてくれる会社に相談することをお勧めする。普通の人が気付かないような住宅の傷を見つけ、保険申請のサポートをしてくれるからだ。万が一の際は、住宅被災調査を検討してみてほしい。
本記事を執筆するにあたり、被災調査会社の「住まいのミカタ-HOME ALLEY-」社に尋ねたところ、以下のような回答があった。
「千葉県の被害のような大型台風となりますと、保険会社からの給付金を得られるような損傷はあるかと思います。
被災調査は、今回の台風に限らず、保険の適用である直近3年間の自然災害が対象です。たとえば、築年数10年以上で、長年日常における台風や強い雨風の風水害、雹害、雪害などで建物に損傷があれば、(生活に支障をきたさないような損傷でも)プロの目で調査し、保険会社へ申請します。結果、給付金の申請漏れをなくせます。
自宅を購入、建築したときに加入する火災保険には、風水害での補償が含まれています。しかし、当時の保険内容や、どのようなときに給付金をもらえるかを知らない方が大半ですので、これを機に一度、調査や申請をしてみることが大事です」
ハザードマップでは問題なしと記されていた地域でも、台風15号では大きな被害を受けている。災害が多発する日本において、確実に安全であるということはあり得ない。停電時に太陽電池を利用した充電器が役立ったという話もあり、防災グッズを揃えることの重要性も知れわたってきている。年に1度は、災害に対する備えを見直すことが必要かもしれない。
奥本 聡 行政書士