前回説明したように、自社株式の事業承継にかかる税金は、承継の方法によって、税金の種類や課税される人が下記のように異なります。
(1)相続による承継:相続税 →後継者に課税
(2)生前贈与による承継:贈与税 →後継者に課税
(3)売買による承継:所得税 →現オーナーに課税
それでは、(1)~(3)の課税ケースを順番に見ていきましょう。
(1)相続人は後継者1人、相続財産は自社株式だけの場合の「相続税額」。例えば、自社株式の評価額が5億円の場合は、1億7300万円が、後継者の相続税額になります。
(2)後継者が自社株式を生前贈与で承継するときにかかる「贈与税額」。例えば、課税評価額が5億円の株式を生前贈与で一気に承継しようとすると、およそ2.5億円が贈与税額になり、贈与税率が高いため贈与税もかなりの高額にのぼります。このため生前贈与で承継する場合は、自社株式の株価を下げて相続税評価額を低く抑える対策が絶対に欠かせません。
(3)売買によって後継者に株式を譲渡するときにかかる「譲渡所得税額」は非上場株式の相続税評価額をベースに算出します。
自社株式の「譲渡所得税額」の税率は、譲渡益の大きさに関係なく一律20%(所得税15%+地方税5%)となります。例えば、自社株式を相続税評価額の5億円で譲渡した場合の譲渡所得税額は、9500万円となります。相続税・贈与税と比較して税金は抑えられますが、後継者に自社株式買い取り資金があるかという問題と、オーナーの手元から自社株式を減らしたにもかかわらず、現金が増加してしまうという問題が残ります。
株価の引き下げに勝る対策はなし
事業承継の成功は、後継者がいかに多くの株式を承継できるかにかかっていますが、一方で、他の相続人に対して株式以外の財産を譲るため、後継者の手元には株式以外の財産はほとんど残りません。事業承継には納税や株の買い取りなどが発生します。そのため、株価が上がればより多くの資金が必要です。
納税方法には、例えば次のような対策があります。
①相続税を物納する
②相続税を延納する
③納税資金を会社から借り入れる
④自社株式を会社に売却する
しかし、①は株式が誰に渡るかわからないリスクがあり、②と③は後継者が長期にわたって高額返済を続けなければならず、④は会社側の時価による買い取り資金の問題が生じ、いずれの対応策も節税のメリットを生むことができず、やはりいかに株価を引き下げるのかが大きなポイントになるのです。