3.金融政策
<現状>
FRBは、6月18、19日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利(FFレート)の誘導レンジを2.25%~2.50%に据え置きました。FOMC声明文では、経済見通しに関する不確実性に対し「辛抱強くなる」との文言が削除され、「適切に対応する」と修正されました。ECBは、6月6日の理事会で政策金利、預金ファシリティ金利(金融機関が手元資金をECBに預け入れる際の金利)を各々0.00%、▲0.40%に据え置きました。また、政策⾦利の⽔準を少なくとも20年前半まで据え置くとし、19年末までとしていた従来から先送りました。日銀は6月19、20日に開催した金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決定しました。また、長期国債を買い増すペースを年間で約80兆円を目途とすること、ETFやリートの買入れ方針に加え、フォワードガイダンス(先行きの指針)も据え置きました。
<見通し>
米国では、FRBはなお足元のコア物価の下振れは一時的なものと見ているものの、中国やメキシコとの貿易摩擦など通商問題がもたらす不透明感への警戒を強めていると見られることから、景気の下方リスクに対する予防的な措置として早ければ7月のFOMCで0.25%の利下げが行われるとみられます。ユーロ圏では、製造業の低迷が長期化していることやFRBが利下げに動くと見られる中、ECBも追随する必要性が高まっていることなどから、年末までに預金ファシリティ金利の引き下げと、債券購入再開がアナウンスされると想定します。日本では、物価(コア)上昇率はマイナス圏に鈍化するとみられ、日銀の追加緩和期待がくすぶりやすい状況が続くと予想されます。日銀は、少なくとも20年春頃まで金融政策を維持すると見られますが、海外中銀の緩和を受けて急激な円高が進む場合は、追加緩和の検討もあり得ると考えます。
各国・地域の政策金利の推移
4.企業業績と株式
<現状>
S&P500種指数の6月の1株当たり予想利益(EPS)は176.23米ドル、前年同月比の伸び率は+4.4%で、7カ月ぶりに史上最高を更新しました。東証株価指数(TOPIX)の予想EPSは123.16円(同▲6.2%)で、5カ月連続のマイナスでした(いずれも予想はリフィニティブI/B/E/Sベース)。6月の米国株式市場は、メキシコへの追加関税が懸念されましたが、パウエルFRB議長の利下げ含みの発言や、米雇用統計の非農業部門雇用者の伸びが大幅に鈍化したこと等から利下げ期待が強まったことを背景に堅調な推移となりました。下旬はイランへの地政学リスクの高まりや米中首脳会談を控えて様子見の姿勢が強まりましたが、米中協議の進展が期待されたこと等から小幅な下落にとどまって引けました。S&P500種指数は前月比で+6.9%、ナスダック総合指数は同+7.4%、NYダウは同+7.2%でした。一方、日本株式市場も米国の利下げ期待や米中交渉の進展期待などから上昇しましたが、円の対米ドルレートが一時106円台を付けるなど、円高基調が株価の上値を抑えました。TOPIXは前月比+2.6%、日経平均株価は同+3.3%でした。
<見通し>
S&P500種指数採用企業のEPSは19年が前年比+2.4%(前月同+2.9%)、20年が同+11.5%(同+11.7%)と小幅下方修正となりました(19年6月28日発表、リフィニティブI/B/E/Sベース)。一方、日本の予想経常利益増益率は19年度(20年3月期決算)が前年度比+2.9%(前月同+7.1%)、20年度(21年3月期決算)が同+6.7%(前月同+6.5%)(東証一部除く金融、QUICKコンセンサスベース、19年6月28日現在)と、今年度の下方修正幅が足元で大きくなっています。業績予想の面からは、米国の株式市場は底堅く、日本の株式市場はやや上値の重い展開となりそうです。
EPSと株価指数の推移(米国)
EPSと株価指数の推移(日本)
5.債券
<現状>
米国では、10年国債利回りが低下しました。米国内の低調な物価指標やFRBによる早期利下げ期待の高まりに加え、中東の地政学リスクの高まり等を受けて、月間を通じて利回りは低下基調となりました。一時16年11月以来となる2.0%を下回る場面がありました。欧州では、FRBによる利下げ観測や、ドラギECB総裁による金融緩和をめぐる発言などを受けてドイツの10年国債利回りが低下しました。また、フランスの10年国債利回りが初めてマイナス圏まで低下しました。ドラギ総裁は、物価の伸びが低迷し目標を達成できない状況が続いた場合、ECBは利下げや資産買い入れなどの金融緩和を再度行うと明言し、物価押し上げへの決意を表明しました。日本の10年国債利回りは、米欧の早期利下げ期待から世界的に長期金利が低下したことを受けて国内債にも買いが波及し、利回りが低下しました。米国の社債については、利回りを求める資金が流入し、国債との利回り格差が縮小しました。
<見通し>
米欧の長期金利は、FRBやECBが年内にも利下げに動くと見られることから、当面低位での推移が続くと見られます。米中貿易問題で米中首脳が協議の再開を合意したことから緩やかながら徐々に水準を上げると思われますが、上昇度合いは限定的と見られます。日本では、欧米中銀の政策スタンスが利下げ方向へ転じる中、日本の物価(コア)上昇率はマイナス圏に鈍化する見通しです。秋には消費増税も予定されており、日銀への追加緩和期待がくすぶり続けること等から、長期金利は当面マイナス圏での推移が継続する見通しです。
主要国の10年国債利回りの推移
先進国国債の利回り、社債スプレッドの推移
(2019年7月3日)