GDP成長と景気
国内総生産(GDP)とは、1年間に一国内で生産されたモノ(最終財)とサービスの付加価値の合計額です。では、GDPが増えると国は豊かになるのでしょうか?実は一概にもそうとは言えないようです。そこで、「実質的にどれくらい国が豊かになったか」を測る物差しとして登場するのが実質GDP成長率です。この実質GDP成長率と景気の関係について見ていきましょう。
国が豊かになるとは?
今回もバナナ共和国の例を通じて、国が豊かになるとはどういうことかを考えていきます。前回、バナナ共和国には新たな住民が増え、経済の効率が上がることでGDPが増えた例を紹介しました。今回はGDPが増加することと国が豊かになることの関係を見ていきましょう。
最も簡単にGDPを増やす方法は、インフレを起こすことです。たとえば、インフレ政策により突然あらゆるモノの値段が一斉に2倍になったとすると、全員の売り上げと、原価とコスト、そして利益が全て2倍になりますので、GDPも2倍になります。
そうすると確かにGDPは2倍になりますが、稼いだお金で買えるモノの値段も同時に2倍になっています。そのため、稼げるお金が2倍になっても、買えるモノの数量は変わらない、すなわち、稼いだお金でモノを買う力は全く変わっていないことになり、結局誰も豊かになっていないことが分かります。これでは国が本当に豊かになった、本当に成長したとは言えません(図表1)。
物価が2倍になることで売上も利益も2倍となりましたが、一方で定食屋の定食は450円から900円に、肉屋の肉も500円から1,000円に他の物品の価格も2倍に上がっているため、モノを買う力は増えていないことになります。
このように、「実質的にどれくらい豊かになったのか」を知るには単なる名目上のGDPの増加率だけを見るのではなく、そこから物価の上昇率を差し引くことで初めて、物価のかさ上げ効果を取り除いて実質的な経済成長を測ることができるのです。
今回の例でいえば、
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実質成長率=名目成長率-インフレ率
=100%-100%
=0%
というように、名目成長率が100%でも、実質成長率は0%と、実質的には全く成長していないことが分かります。
経済成長率と景気の見通し
私たちは日常的に景気が良いとか悪いと言う言葉を使っていますが、この意味について考えてみましょう。例えば「来年は景気が良い」とは、来年の方が今年よりも経済活動がより活発となっている状況を予測していることになります。一つの目安として、今年の経済の実質成長率よりも来年の経済の実質成長率が高いと予想している、ということになります。
因みに今年の実質成長率を計算するには、昨年と今年のGDPとインフレ率が必要となります。さらに来年の実質成長率を計算するには、今年と来年のGDPとインフレ率が必要になりますので、肌感覚で簡単に予測できるものではありません(図表2)。
例えば、ある国の2015年のGDPが100兆円、2016年のGDPが110兆円と1年間でGDPが10%増えたとします。これは名目上経済が10%成長したように見える(名目成長率10%)ということです。一方で、電気代が3,000円から3,150円へ、米10kgの値段が4,000円から4,200円へと、モノの値段が平均5%上がったとすると、その分同じお金でもモノを買ったりサービスを受けられる量が減っている(インフレ率5%)ことになります。このインフレ率を先ほどの名目成長率から差し引くことで、GDPは実質5%(=10%-5%)成長したことがわかります(実質成長率5%)このように、実質GDP成長率の予想には、2年分のGDP額とインフレ率の予想が欠かせません。
世界各国から集めた情報を専門家たちが分析したうえでこうした数値の予想をし、各国の実質GDP成長率の見通しを発表している国際機関の一つがIMF(国際通貨基金)です。IMFの予想は世界中の様々な機関や投資家が注目しています。皆様も機会があれば是非チェックしてみて下さい。世界経済の「今」や「歴史」、IMFのエコノミストによる「将来予測」を見ることができます(図表3)。
データは過去の実績であり、将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『実践的基礎知識マクロ経済編(3)<GDP成長と景気>』を参照)。
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